所詮、すべては戯言なんだよ

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今回は良い話で終わった。幕引きのあとのアンコールでは再び彼女は表舞台に上がることが出来た。そして、その後も呪いの子と一緒に幸せな余生を送るということで、観客も彼女も、そして、その息子も満足な余韻に浸ることが出来たのかも知れない。

背景にある凄惨な事実

だけど、舞台では彼女を守った人間が殺され、彼女の代わりの人間も殺され、彼女を愛した夫となった人間も王子によって殺され、憎みの矛先は違えど、王子は彼女を愛することもなく、自分の人生を終えた。最悪の物語だ。

人が代わったように窮屈な世界から広い世界へと飛び出す王妃の物語にスポットが当たって注目されたものの、事実は小説よりも奇なり、そして、企なり。衝動で人を殺しても許される王子と裏で糸引いている科学アカデミーの思惑が全てで、ヴィクトリカが真実を暴いても法の裁きが下らない世の中という不平等。

そこに正義の鉄槌を下そうとしているオカルト省のブロワ侯爵の図に見えるけれど、そのためには人を人と思わないくらいの覚悟と憎悪が必要なのかも知れない。真実を知るために権力を得る。そして、いつの日か、真実を歪めるための権力へと変化する。そういった人間の差別化を良しとするか悪しとするか。

リヴァイアサンの生きがい

リヴァイアサンの末路を考えると、権力と地位と名誉と財産を手に入れた時の彼の生きがいは何だったのだろうと再度考えさせられる。策士である彼が劇では全て悪の人間に変わっているのも可哀想な事実だ。

頭を使い、体を使い、身が朽ち果てるまで、自分の素顔を明らかにすることも許されない。味方も仲間も信頼のおける人物の一人でさえいなかった。


そこに寝取った格好になった王妃との子供が生まれたわけだけど、唯一、リヴァイアサンの人生で救われた事実があるとすれば、自分を愛した人間がいたということなんだろう。

途方も無いほどに多くの金を手に入れても、リヴァイアサンに信頼を置き、自分の仮面の裏側を知っても、なお愛してくれた王妃一人に敵うものはないのかもしれない。

王妃とリヴァイアサンの末路

そして、その証として、自分の子供を残せた。そのために、犠牲になった王妃の身代わりの人らが救われないけれど、その罪を背負っても生きていく王妃は辛いだろうと思う。

彼女は王子からの愛を感じ取れずに王宮に閉じ込められ、愛というものを知らずに自らの人生を終える日々が嫌だったのだろう。この部分はヴィクトリカの背景とシンクロする。違うのは地位と幼少の頃の思い出があるかないかくらい。


そこにリヴァイアサンが現れて、彼の過去と王妃の過去とでリンクした部分があったのだろう。お互いの傷を舐めあうように、お互いの人生を憂う共感という名の愛情。そこに男女という違いがあっただけで、リヴァイアサンは愚者として死に、王妃は大切なメイドを失った。

自由になった王妃は本当の意味での透明になれる石を手に入れたのかも知れない。リヴァイアサンが残した愛情と言う名の意志を持って、彼女は息子と共に、これからも生きて行くのだろう…。

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第10話にして、ようやく、緒花は居場所を確立したことを確信した。ここまで長かったけど、心温まる話で、納得の行く話に仕上がっていました。初回から、自分の存在のふわふわ感が嫌で、波乱万丈な人生を送りたいと願っていましたが、その本心がこの回になって明らかになるという流れは素晴らしいです。

緒花の目指すモノ、目指すコト

他にもどこかにいそうな自分というモノに価値があるのか、自分は何を目指しているのか、普通に暮らして、普通に結婚して、普通に家庭を作って、普通に老いて、普通に死んでいく。そんな誰かが敷いたようなレールの上を走りたくはなかった。

だからこそ、喜翠荘で働いて、ゆくゆくは若女将になるという普通ではありえない人生を送れそうだということに期待で胸が膨らんでいたと思うんです。だけど、現実は甘くなかった。女将さんに見習いの仲居と同様の扱いを受け、仕事の厳しさを学び、汗と涙を流しながらの日々が続いた。

でも、それはそれで、喜翠荘の一員としてのプライドと緒花としての行動力とコミュニケーション能力で周りとの距離を徐々に縮めていき、暮らしやすい環境に整えて、やりがいや楽しさを見出してきた矢先に、前々回の女将さんが倒れるという事件が起こった。


その時には、女将さんのメッセンジャーとして、陣頭指揮を取りながら、苦境を皆で乗り越えていった。そこに喜びや感動もあったし、自分はここでは生き生きしている。

息をしている。生きている実感。頑張れば報われる。その頑張りを周りにも認めてもらえる。そんな嬉しさを感じながらも、必死になって毎日を過ごしてきたんですよね。

なので、若いといえど無理をすれば体は壊れる。当たり前に思える当たり前を経験。だから、コンサルは体調管理という責任を果たせない緒花を叱責していましたけれど、無言のプレッシャーで反抗する菜子と巴。そして、ダメ押しで女将さんがまとめる。


体調管理の大事さを認めつつ、緒花の隠れた努力は知っているので、コンサルが言った女将さん自身に対しての体調管理に問題があったという部分だけを肯定しつつ、緒花に対しては注意しない程度に優しさを見せる。

そう何度となく倒れられたらたまりませんが、頑張った結果の反動で体に響いたというだけなので、その部分は多めに見てあげて、周りの士気だけを上げさせる。

そういう意味では喜翠荘の異常なまでの連帯感は緒花一人が築き上げたものではなく、女将さんがさりげなくまとめあげて、優しさを分かち合いながら、皆それぞれに自信をもたせる配慮が出来上がっているのは女将さんの元仲居としての経験の結果なのかも知れないですね。

優しさが厳しさに変換されてしまう熱というイタズラ

そして、周りからの優しさを一心に受け止めつつも、その優しさが厳しさに見えてしまった緒花の不安というのはまだ解消されていないんだな、と改めて思いました。

みんなが優しいということは、それだけ自分が大切に思われていることだと感じられなかったのは、まだまだ緒花が人として未熟なのかも。

きっと自分がいないと、みんなが困る。その困っている姿を見せてくれれば、自分はどんなことになろうとも頑張る意欲が出てくる。それが自分の居場所。自分の責任。自分の役割。皆が必要としてくれている。喜翠荘の歯車として必要な部品であるということを証明したい。いや、周りに証明して欲しかった。


だから、何度となく起き上がっては、その証明を探し求めるのだけれど、それは手のひらからすり抜けていくかのようで、掴もうと思っても掴めない。

「緒花がいなくても大丈夫」という言葉がその証明を覆す。せめて、言葉だけであって欲しい。現状はてんやわんやになって、緒花を休ませるための文句なんだと……。

でも、菜子の言葉が胸に響く。菜子と巴だけでやっていたという実績があるということ。もう、それだけで証明はなくなったようなもの。やっぱり、自分はここにいても、自分という存在さえも証明できないんだ。居場所は確保できなかった。なら、せめて、必要と思ってくれている考ちゃんのもとへ…。


このやりとりがなんとも歯がゆくて、大切にされればされるほど不安になっていく不思議。その不安が周りに伝わらないのも歯がゆい。

だからこそ、体調管理もままならないなんて、と怒ってくれた方が良かった。その管理が出来ていないせいで、こっちは迷惑だよ、と冷たい言葉で言ってくれた方が良かった。

優しさを与えられれば与えられるほど、その優しさの裏にあるものを探りたくなる。その優しさの意味って…、熱で頭が回らない中で考えても結論が出ない。だから、どうしても、ネガティブな方向に向かってしまうのですよね。


で、その女将さんの代弁者として、今回は菜子が懸命に緒花の必要性を熱弁する姿に感動しました。もうね、ここまでマッタリと静かな空気を漂わせて、緒花の気持ちを知って必死にその誤解を解こうとする菜子が立派になっていて泣きそうになった。

菜子と民子と緒花の3人の結束力を改めて感じたし、緒花のおかげで、菜子も「緒花が必要」だと言えるようになった。そんな言葉を発するのを前は恥ずかしがっていた菜子の進歩。

その言葉は伝わったかどうかはわからないというのもいいですね。その一瞬だけの言葉で緒花の寂しさを紛らわせるのではなく、これから菜子と民子も行動で示していけたら、緒花の勘違いも消滅していくのかも知れませんね。

テレビを点けることで感じる深い愛情

それと、テレビを消したり点けたりしていた菜子。一人で目を覚ましたときに、静寂が包みこむことで、風邪で寂しいのに、より一層の孤独感を抱いてしまうので、音があることで人がいるという錯覚を起こして、それを緩和させる優しさ。

それは菜子が姉妹がいたからこそで、元々一人で生活していたような緒花にとっては別に気付かない点だろう。なので、緒花にとっては子供の頃に普通に風邪引いたのと同じ感覚。

重要なのは、菜子が姉妹と同様に緒花のことを思っていることだと感じたり。

菜子と緒花に血縁はないけれど、同じ旅館で働き、プライベートも共にすることで、菜子にとっては友達を超えて家族みたいな存在になっているのだと思って、寂しさを一人で抱えないように、菜子と緒花、そして、民子。それぞれが必要としあって、絆を大切にしていこうという気持ちが優しすぎて泣きそうになりましたよ。

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鳴かぬなら殺してしまえホトトギスのごとく、ヴィクトリカを育てあげて、ココ・ローズ事件の解決に全力を尽くさせようという姿勢を貫くブロワ侯爵。

恐怖と謎と信念とその先にあるものは？

何をしでかすかわからない父親への恐怖から、ヴィクトリカに自白を促すというような犯人を追い詰める感覚の儀式まがいを好む彼はドSのようです。

つまりは娘の知能を信用してはいるが、感情面での娘からの父親への信頼は信用していない。

だから、娘は隠しているのだろう。ならば、吐け。吐かぬなら、どこまでも追い込んで追い詰めて、彼女の精神面での崩壊させるまでだ。無知な彼のムチ。知らないということを知らない。そこまでの期待を背負ってのヴィクトリカの心情としては何よりも謎を解くのに必死ではあっただろう。


だから、母親からの謎を解けという励まし。それに加え、父親の灰色狼への先入観も許さない。

周りの誰もが敵に見えてしまう状況下での久城一弥の存在が彼女を支える。しかし、久城一弥を巻き込むことになると、あの父親のことだ。

その久城一弥を人質にした上での脅迫が始まることを予期して、解けない謎に備えて、彼とは「ここまで」というスタンスで突き放す。

久城一弥を守ろうとした想いの裏に…

まあ、突き放されれば、どこまでも追いかける久城一弥のことですから、ヴィクトリカは何を言ってもムダだとは感じているとは思うんですよね。

泣いてもわめいても、怒っても懇願しても無視しても、自分を追いかけてくる無邪気な少年。だからこそ、愛しい。

自分の何に惹かれたかはわからないけど、灰色狼の血族にこだわる父親とは違う、自分の内面での魅力に彼はいつまでも追いかけるのだろう。バカな奴だ。


だけど、そんなバカな彼でも、長年ヴィクトリカと接してきたので、ただ、追いかけるだけでなく、カオスの欠片の収集に努めて何か役に立とうとする。そこにヴィクトリカの信頼と理解が見られて、彼も成長したんだな、と感じさせる回でもありました。

でも、母親の「謎を解け」が今回のココ・ローズ事件とは別に思えてしまうんですよね。今回の謎を解いたとしても、父親の呪縛から逃れられないことを身を持って知っている母親としては、次の嵐という大きな謎に対して言っているのではないかと思ってしまう。

ブロワ侯爵の娘への扱いと対比する母親の愛

それに、謎を解かなくても、ブライアン・ロスコーの力をもってすれば、ヴィクトリカを監獄から救い出すことも可能だと思われるけど、社会的には抹殺される。

でも、今の軟禁状態よりも母親の元で過ごす放浪生活の方がいいに決まっている。でも、それはしない。きっと、ヴィクトリカが自ら局面を打開して、こんな醜い争いを終わらせてしまうことに期待しているのかも知れない。

そこに、同じように謎を解くように望んでいる、母親と父親。愛情と機械の違い。モノという機械にも感情や正義感があるのだろう。ただ、機械は人間の動かした通りに動けばいいのだ。質問があれば、そのまま答えればいい。そこに自らの感情を考慮する必要はない。


それが厄介だと思っている父親。灰色狼という謎を解く機械（娘）に反骨精神はあっていいけど、反抗精神はあってはならない。きっと、犯人はわかって、父親が属するオカルト省と対立している科学アカデミーの肩を持って、反抗しているのだろう。

我が娘に答えられない謎などない。ならば、その精神自体をなくしてしまおうじゃないか。まあ、仮に解けない謎だったとしたら、それまでだ。使えない道具は捨てるまで。また、新しい道具を買えばいい。

きっと、この父親の精神がヴィクトリカはわかっているからこそ、久城一弥に被害が及ばないようにした。自らの死で済むなら、御の字だ。あの父親なら、久城一弥を人質にして殺してから、自分を殺しかねない。そんなバッドエンドを想像していたのかも知れない。

久城一弥…バカな奴め（ /// ）

で、久城一弥が乗り込んできた。もう、あとには引けない。自らの命だけでなく、愛する人の命を守らねばならない。そこに勇気と情熱がわいてきたのだと思う。

まあ、逆に言えば、バカな久城が自らの危険を顧みずにのこのこと飛び込んできて、心身ともに一緒にいてくれることに喜びを隠しきれない。あの神託を全て信じるわけではないけど、いつの日も心だけじゃなく、体もそばにいてくれるのだから、自分はまだ頑張れる。

そこに久城一弥という存在の大きさだけでなく、カオスの欠片を集めてきたという秀才の本領発揮となるか見所満載で、今回の事件も期待できそうです。

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そこを上手く描いて最後の心地いい笑顔につながって、前編・後編通してのメッセージが色濃く表れた今回の非常事態への対処でした。

覆面記者はあくまで大切なお客の一人

今回、一番良かったと思えるのは、結果はわからないけど、成果は評価される流れだという点ですよね。女将さんの意志を汲んだつもりの緒花と戦う若旦那率いるコンサルとの戦いに終止符は打たれず、これからも続いていくということなんですよね。

誰が間違って、誰が正しいとか、そういうことを考えさせないエピソードとしての優しさと温もりが感じられます。結果的に覆面記者を割り出せたのは緒花でしたが、それによって、何かが変わるわけでもない。結果がわからないだけに、いつも通りにサービスを提供することが正しいとは、コンサルも若旦那もあの小説家も思っていないでしょう。


だけど、緒花は知っている。でも、そのことについてみんなに話すよりも、民子の初挑戦（？）の天ぷらに対して褒めあって仲良くなる方がよっぽど有意義。どの方針が間違っている、どの方針で進めばいい。そんなことは彼女にとっては今は正直どうでもいいのですよ。

向上心を持ち、お客様に対してのサービス向上に努める精神は大事ですよ。だから、民子も、今日の徹から褒められたことに対して、ただ浮かれるだけでなく、日誌に今日学んだことを書き込んで、忘れないように日々精進する。

そんな各人の向上心と負けない熱意の賜物の結果が喜翠荘での長い一日での成果としてつながっていて上手い作りになっていました。


支えあって、一丸となって困難に立ち向かう。その精神が崩れなければなんとかなる。なんとかならなくても、女将さんがいない非常事態なんだから、失敗しても悪くない。失敗は成功の母。緒花みたいな新入りは失敗して怒られてナンボですよ。でも、コンサルの言っていることは緒花は実践しない。

そこには緒花の信念があり、周りも女将さんを見てきて、緒花の言葉から、女将さんの想いが伝わってきたと思うのですよ。だからこそ、次郎丸がサービスの変化をこっそりやろうとしたときに、人に対して臆病になっている菜子が緒花の活力ももらって勇気を出して暗黙のプレッシャーで勝利を勝ちとった。

努力は報われないかもしれないけど、その気持ちだけで評価に値する

それに対して、次郎丸もコンサルも自分のやり方で、成果と結果を出そうとした。そして、結果はわからないけど、成果はあったと思っているのではないかな。例え、緒花の持論が正しくても、誰がそうだったかは書かないので、もしかしたら、自分たちのおかげで結果が出たと思っているかも知れない。

だけど、それもいい。そのことに対して、否定はしない。どんな形であれ、喜翠荘に対して行動したその姿勢を、この作品は評価しているんですよね。もし、彼らは緒花のやり方に不満を持っているならば、ボイコットすればいい話。

だけど、協力はしないまでも、邪魔はしないで、自分たちのやり方で喜翠荘を守ろうとした。喜翠荘を想う気持ちは皆一緒。だから、みんな笑顔でいられる。笑顔で女将さんを迎えられるんですよね。

徹に対する緒花の信頼

そして、徹の仕事に対する姿勢。前に仕事とプライベートは割りきって、仕事の非常事態に備えていない彼の姿勢だと、徹を見付け出してから苦労すると思ったのですが、意外に苦労しませんでしたね。まあ、それが緒花の力尽きてしまった姿を見たからかも知れませんが、こんなにも自分を頼ってくれる人がいる。

喜翠荘は女将さんも徹も菜子もいないでやっていける。こんなお客が大勢でも、非常事態だからという理由で、お詫びとして料金を割引したり、サービスを縮小して出来る限りのことをするまで。だけど、一度、徹の移籍話を勘違いした緒花と民子同様、頼られる存在として徹は誇りをもったのだと思う。


結構、ノリはふざけているけど、人から頼られ必要とされる。それだけで、菜子が抱いた気持ちのような自分が喜翠荘の一員として周りに認められている。すぐにそれが喜翠荘の結束力に結びつくというわけではありませんが、徹としてはプライベートを優先するかしないかよりも、緒花がボロボロになって、自分を探しだそうとした。

それが緒花としての必要か、喜翠荘としての必要かはプロの徹なら、すぐにわかるだろう。だけど、緒花から少し好感度は上がったことにも、少し嬉しさがあったと思う。

自分のヘルメットは自分で被り、借りてきたヘルメットを緒花が被ればいいのに、ヘルメットの強度が違うので、緒花に対して強度の強い自分のヘルメットを差し出すあたり、口ではからかいつつもさりげない優しさを見せてくれました。そういう所が民子の惚れポイントなんだろうな。

突発的に動く孝ちゃんと緒花という二人の共通点

そんな緒花の活躍の裏で考ちゃんは無駄足になった現実。この部分でのすれ違いが恋の波乱要因にもなりかねませんが、今から緒花のいる旅館に泊まりに行こうとしているのに、予約を入れない突発さ。言葉よりも体が動いてしまう。緒花に早く会いたい。その衝動で頭の中は占められて、他のことに頭が回らなかった。

これは緒花も同じことで、徹を突発的に探しにきたけど、みつからない。きっと、二人とも考える前に行動に移してしまう。考ちゃんとしてはそんな緒花に憧れもするし、いつの間にか思考も緒花に似てきた。そんな近くにいるのに携帯電話で話す自分の情け無さと共感。それが良い方に出たか、悪い方に出たかの例なんですよね。


なので、少しくらいは計画的に、突発的な事態に対して、どう動けばいいか二人とも決めておいた方がいいかもしれません。なので、緒花がすごいのではなく、考ちゃんと同じで普通の高校生として動いただけなので、彼からは遠い存在にはならずに、きっと緒花は緒花のままなんだろうなぁ、と思いました。

緒花にはそれを支えてあげる良き仲間に恵まれたというだけかも知れない。そういう意味では変化を求めていた緒花にとっては高待遇で低賃金で重労働という感じだけど、楽しい毎日を過ごしている。普通に考えれば、ほんと、ホビロン。

でも、考ちゃんもバイトを始めて少しずつ普通の高校生として変化を望んで経験を積んできている。お互いがお互いにとって見えない努力を重ねて、いつか二人とも報われる日がくるといいですね。

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物語も架橋に入って、ソヴュール王国の最大の謎のココ・ローズ事件を解決すれば、ヴィクトリカは役目を終えたということになるんでしょうか。それとも、二度目の嵐での活躍を期待されているのか。

今はゲスのブロワ侯爵の言いなりになっているので、現状を打開するためにヴィクトリカの知恵で解放されることを母は願っているように感じました。

クイーン・ベリー号の末路を匂わせる

まあ、なんていうか、この作品の最初の事件のクイーン・ベリー号のあの子が精神病棟にいることがもうね。彼女は次々殺されていく少年少女という悲劇を目の当たりにして、心を病み、更生（？）して飼われることになったのか。

その心の傷は治るどころか、復讐心を募らせて、自分の人生を犠牲にして恨みを晴らす。彼女の人生は何だったのか？　と、今にして思えば、最低最悪の事件だった。

飼わせるということで、占い師の老婆は復讐されることを予期していたんでしょうね。人間を人間扱いしない自分に対する罪悪感から生き残った少年少女に慈悲をかけたのかも。そして、その報復行為で終わらせるという結末で、事件の全貌を知らない世間にとっては逆に老婆の方に慈悲がかけられて終わるという感じで報われないですよね。


それと、ヴィクトリカの事件は重なってきそうなんですよね。同年代の子たちが殺し合う現場はなかったものの、幽閉され、孤児と同じような扱いを受け、実質的にブロワ侯爵によって学園で飼われることになった。ヴィクトリカの心の傷は久城一弥が少しだけ治してあげたかも知れない。

それに、生きている母親の存在があること。そういう意味ではヴィクトリカはかなり救われている。ブロワ侯爵に復讐心を募らせないで済んでいる部分がある。だから、最初の事件で彼女が犯人だと証言できた。彼女と同じような感情を抱き、その復讐心が理解できて共感したなら、そのまま見逃したかも知れない。でも、責任は責任だ。

復讐の正当性と不当性

ヴィクトリカはその部分での割り切り方は出来ている。悪人を罰して何が悪い。その人が受けた仕打ちがわかれば、その復讐は正当防衛だと思ったりするかも知れない。正義とは何なのか、悪とは何なのか。そういった倫理というものが一人の少女としては理解出来ない部分があるかも知れない。でも、それは書物によって教えられた。図書館塔の中で幾千もの人が書いた本による哲学や道徳観の学習。

それを学べば学ぶほど、人間の愚かさや、ブロワ侯爵のした仕打ちの酷さが自分の心を蝕んでいく。ヴィクトリカの言う「退屈」という名の孤独に押しつぶされる毎日。希望のない未来が待ち受けていることも知っている。そこに「透明になれる石」となる少年が現れた。自由を知り、学園の外での限りない可能性を感じることを知ってしまった。知ってしまったからには、そこに期待せざるを得ない。その「石」がある限り…。


最初の事件の少女のように復讐という選択もある。その結果もわかる。その道が正しいか正しくないかもわかるけど、その道を歩んだ少女の気持ちまではわからないんだろう。過去の復讐を遂げて、消える未来を選ぶ少女の意志までは…。

そういう意味では今はヴィクトリカが試される時期。知恵の泉によって、自分にとっての最善の道を導き出さないといけない。今度の事件や嵐は人生を大きく左右する道であることは母からの忠告でわかった。今までの難事件と比べものにならないプレッシャーが彼女を襲うだろう。だけど、母は娘の活躍を信じている。黙って見守ってくれている。手を貸さないでも、娘自身の力で打開できると、そう思ってくれることが心強い。

最初の事件の少女のように利用されて終わるのか、それとも、復讐以外の策があるのか。ここにきて、俄然燃える展開になってきて、ヴィクトリカ自身の末路に不安と希望を抱く毎日になりそうです。

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個人的にこういうシリアス展開が好きなので、一話完結ではない物語の走り出しとしての魅せ方に満足しています。今までのコメディ要素が日常だとすれば、突発した七組のお客が来るというシリアス要素が非日常。この二つの緩急の使い方がシリーズ全体（と、言っても、1/3ですが）を飽きさせない作りになっていると思いました。

選択と集中、そして、優先順位

経営資源の選択と集中。またも出てきた「吾輩はコンサルである。成果はまだない」怪しさ満開の彼女。今回、提言している選択と集中は、打開策としては一番確実に見え、普通に思い浮かぶ程度なので、それほど出来るコンサルではないと見た目と言動で判断されてしまう彼女は少し不憫。こんな田舎まですぐに来てしまうくらいに彼女は暇なんでしょうね。

で、選択と集中は、ターゲットを絞り、そこに集中してサービスするということになるのですが、緒花が言っている通り、平等性を欠くという意味では諸刃の剣になってしまう。狙い通り、ターゲットが当たったとしても、客によって値段とサービスと評価がマチマチになってしまい、次の戦略を立てにくい。


でも、この選択と集中はコンサルが言っている通り、優先順位という意味では自然と差が生まれてしまうものなんですよね。誰の部屋を早く掃除するか、どこの部屋に夕食を早く持っていくかなど細かいことを含めたり、ある資源（人材や料理など）が少なくて平等にサービス出来ないのなら、どのお客を優先して、どのお客に謝るか、そこには必然的に差が生まれてしまう。

だからこそ、女将さんが冒頭に言っていた若旦那に対するサービスに差が生まれると思った時には断る判断も必要だと叱っていたんですよね。まあ、それが結果的に悪い方向に出てしまったけどね。


その優先順位とサービスの差は、女将さんがウォッチしている日誌でお得意さんに対しての情報からサービスアップを狙ったり、適材適所に従業員を配置し、柔軟に対応することで、サービス業としての最善の道を模索していることで、ささやかな選択と集中を女将さんは実践しているんですよね。

だから、コンサルの言っていることは間違ってはいない。女将さんが思っていることもそれと大差ない。（そう考えると、コンサルの提案は全て女将さんが既に実践済みなので、彼女の提案は全て無意味なんですよねｗ）

問題は、問題が起きたときにどう対処するかという一点になる。女将さんが倒れ、指示系統が崩れた今、誰かが指示を出し、誰かが問題に適時判断しなければならない。

若旦那が頼った人 vs 女将さんが頼った人

まあ、こういった時には若旦那が代わりにならないといけないんだけどね。そのために女将さんの直近に置かれている存在なんだから。だけど、彼はコンサルを頼った。

ならば、そのコンサルが女将さんの代わりの指示系統になるのだけど、女将さんの遺言（いや、死んじゃいないよ）が緒花に日誌の事を匂わせて暗に命令しているので、その意味を理解した緒花との対立という抗争になる。


で、勝ったのは緒花。まあ、勝った負けたとか内部の話なのでどうでもいいのですが、この問題で理解して欲しいのは、若旦那の女将さんへの理解と仕事の理解ですね。女将さん頼みの彼は、女将さんがいなくなるとコンサルに頼る。

彼の経験からすると、女将さんの代わりになっていい気がするけど、彼自身も女将さんも不安なんだろう。彼はすぐにコンサルに頼ったし、女将さんも緒花に想いを乗せて旅館を守ってもらおうとした。この部分が未だに女将さんが若旦那に任せられないと、常日頃から思っている証なのかも知れません。


女将さんの若旦那に対する信頼よりも、緒花に対する信頼が勝った。あれだけ緒花のことを叱ったり、叩いたりしたけど、それも全て愛情の一部で、それに対して全力で抵抗して、自分なりの結論を出して行動してきた緒花の想いが女将さんに伝わった証拠になんか泣けてきた。

まず最初に緒花がとった行動は人に頼るということ。若旦那がやったことと大差ないと思うのですが、指示するだけの人間と使える人材の確保は全然違うというのを緒花はこの年にして理解している。

頼って成果を出してくれる人間とその結びつき。菜子は出動が早くて容易に解決したけど、徹の場合は街にまで出ている。ここで即決した緒花の行動力が素晴らしすぎる。

緒花の決断力と行動力

菜子を呼んで、仲居が一人増えて、緒花が街に行くことで仲居が一人減る。結婚式場まで行った緒花の判断が正しいかどうかは、今の所イーブンだ。

無事に徹を連れて帰って、自分も仕事に戻れれば、仲居が増え、出来る料理人が確保され、その時にその判断が正しかったと言えるのかも知れない。だから、今は不安で一杯なのだろうけど、その不安に押しつぶされずに、走って走って走りまくる緒花が格好良かったりしました。


でも、徹の連れ戻しは容易にはいかないと思ったり。厨房が三人で回している上で、一人は見習い。だとしたら、蓮さんと徹の二人で回していることになる。そうしたら、蓮さんが倒れたり怪我したりする事態が起こったら、厨房は全滅。

だから、徹はいつでも非常出勤出来る状態にいないといけない。だけど、ケータイの電源を切っている。それは結婚式会場だからかも知れないけれど、マナーモードにしておくぐらいの責任感は欲しい。

きっと、今の徹には責任感がない。民子フィルターで結構、真面目に見える彼でもプライベートは仕事に汚染されたくないという割り切り方を持っている人間なのかも。そういう意味では菜子のような感じで仕事でもプライベートでも頼られることを嬉しく思う性格が一番扱いやすいのかも。


なので、もし、緒花が徹に会うことが出来て非常事態なんです、と伝えることが出来たとしても、気乗りしない返事が帰ってくるかも知れない。

それは上の指示系統のリスク管理の問題だと思って、この機会に自分の大切さを思い知れみたいな、いい加減な奴かも知れないと、今までの緒花に対しての彼の態度を見ると思えてしまう。

今回で緒花の行動力の素晴らしさは実感出来たけど、次回はツンデレな彼を連れ戻す程の発言力があるかが問われてきそうで、緒花の試練は続きます。


まあ、緒花が徹を無事連れ戻したとしても、民子からの連絡はシャットダウンして、緒花には心を許したという面で、緒花に対して、少しだけ嫉妬心を抱くかも知れないね。それに考ちゃんも着いたみたいだし、今度は恋路の面でも一波乱も二波乱もあるかも知れないので、楽しみです。

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名もなき孤児として生まれ、利用されて人生という幕を閉じた。ヴィクトリカと対比した形で愛情を感じることもなく、何の楽しみも笑顔も見せることなく、消えていった彼女の定めが悲しくて…。何とも言えないバッドエンドに見えました。

ヴィクトリカの臨機応変な知恵とこの世の中で生き抜くための経験

前回の時計屋さんのトリックはヴィクトリカが解明していましたね。私の勝手な予想という名の空想は全て誤爆したというわけでお恥ずかしい限りです。

でも、彼が指名されたときにヴィクトリカはすぐにアプローチしていれば、なんとか彼は救われたような気もしますが、最初から彼に目を付けていたので、どちらにしろ消されていたのかな。

そういう意味では彼に関わらないという選択肢で身を守ったヴィクトリカの知恵が、彼女自身を守り、無意味な抗争に巻き込まれないように臨機応変に対応している気がします。


その意味では、今回はヴィクトリカが列車の人たちを救おうとしたのは成長と言えるような側面を感じました。列車のスピードが早いとはいえ、最悪、飛び降りれば、自分たちの命は救われると思うのですが、そうはせずに、列車の人たちを守ろうとした。

それは久城一弥の正義心が強かったためだと思うのですが、そこに自らの思考を使えとばかりに久城一弥に付いて行こうとした彼女にも周りに対しての最低限の愛情と自分自身が感じる愛情を受け止めてきているんだろうなと思います。

お気に入りの孤児のあの子がフェードアウト orz

だから、対照的なのが、孤児のあの子。めっちゃ気に入っていたんだけどな。こういう負のオーラをまとっていて、クールな女性はかなり好み。作品の雰囲気と合わさって、ミステリアスなオーラさえ感じてきます。

人を信じない、人につれない、人に期待しないという三拍子揃った不幸に生き、不幸に死んだ彼女が今回の主役だと思っています。

孤児のまま、いつか会えるかも知れない母親を待ちわびて、ベルゼブブにいた彼女はいつまで経っても会えることはなかった。それが生きがい。それが人生の目標。それ以外に彼女を幸せにすることすら難しいぐらいに、多くを望んでいなかった。願い事はひとつだけだった。


その部分を科学アカデミーに利用されたんでしょうね。利用という言葉が正しいのかわからないけど、科学アカデミー側としてはただの任務としてしか彼女を見ていない。

任務が失敗したら、列車もろとも爆発させるほどの用心に用心を重ねたのは、科学アカデミー側としての彼女の価値と評価と見込んでもいいのかも知れない。

科学アカデミーからすれば、多くの人が乗っている列車の大勢の命と彼女の命は等価だと言わんばかりの表面上の愛情。愛情という名の冷酷な組織とで言うべきか。

何もない彼女が、どうして、その任務を引き受けたかは明確にならないまま終わってしまったのが、より一層の悲壮感を抱く。きっと、任務を全うするような脅しがあったのだと思う。メリットもなく、デメリットだけの危険な任務。そんな印象でした。

母親から守られない孤児の無力さと抗い

だから、囚われの姫君となっていた木こりの妹。これって、孤児の彼女が成功しても、失敗しても、どちらかの命を失うことになった天秤の図式が非常に辛い。政治面では上に立つ者の言い分が全てこの世の中の正義になり、弱者は罪を負ってもいないのに虐げられる。

そういう意味ではこの作品の方向性として母親から捨てられた孤児たちの末路はいつも酷いことになっている気がする。

せめて、短いながらも人生を送ってきた意味や存在を周りにアピールして、自分は現実にここにいたという形見箱のような証を残せればいいな、と思った。物として残っても、それを悲しむ人もいないというのは悲しいけれどね。


だからこそ、久城一弥という人物に出会えたことで、母親の存在と母親からの愛情を人伝てとはいえ、実感できたヴィクトリカは恵まれているのかも知れない。周りの不幸が増すごとに、彼女の不幸が緩和されていく。

相対的な幸せを認識することで彼女は笑い、拗ねたり、怒ったり、楽しんだりできるのだろう。亡くなった孤児の分まで彼女が幸せになってくれればいい。そう思いました。

それと、孤児の最後の言葉は「お母さん」でしたが、その願いは叶わなかった。それはわかっていた。でも、誰かに気付いてもらいたかった。誰かの心の中に自分の存在を刻みたかった。そして、不幸な末路を迎えるのは自分だけでいい。だからこそ、鉄橋の爆弾について久城一弥に話した。


何も言わなければ、自分と同じ不幸な人間が一杯生み出され、不条理な世の中に対しての少しばかりの反抗が出来た。でも、彼女はそれを望まなかった。それが彼女の唯一この世界に出来ること。

憎しみを憎しみで返すのではなく、愛情で返した。実質的にその言動が世の中に対する一番の反抗となったんだろうな。

そういった彼女なりの誠意を久城一弥は受け取って、弱い者の気持ちをいつまでも擁護しながら、自分の道を進んで欲しい。ヴィクトリカに付いている従者としてではなく、対等な存在として。利用もされない。利用もしない。人としての真っ当な生き方の模索と世界の少しの改善が出来れば嬉しいなって、思ったりしました。

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