GOSICK‐ゴシック‐ (角川ビーンズ文庫)
桜庭 一樹
角川書店 (2011-03-31)
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世界観

[ミステリ][恋愛][学園][友情][中世ヨーロッパ][シリアス]

あらすじ

前世紀初頭、ヨーロッパの小国ソヴュール。極東の島国から留学した久城一弥は、聖マルグリット学園の図書館塔で奇妙な美少女・ヴィクトリカと出会った。彼女の頭脳は学園の難事件を次々解決してゆくが、ある日ヴィクトリカと一弥は豪華客船に招待され、そこで本物の殺人事件に遭遇してしまう。やがて彼ら自身に危機が迫ったとき、ヴィクトリカは―!?直木賞作家が贈る、キュートでダークなミステリ・シリーズ。

短文感想(ネタバレなし)


ああ、この雰囲気がたまらない。暗くてドンヨリとした学園にあるまじき、リアルなダークっぽさ。無論、ミステリにこういった殺伐とした雰囲気は必須になっている昨今、その中でも異彩を放つほどにヴィクトリカと久城一弥の二人が命を賭け戦っていく。

無論、命を賭けてまで自らを危ない状況に追い込むマゾヒストではない。ただ状況が一変した空気の中でどのような態度を取るかに注目して欲しい。喚くもの、叫ぶもの、呆然と立ちすくむもの、錯乱して常軌を逸した行動にでるもの、それらがラノベっぽくなく本当に狂気として描かれている。

そこからヴィクトリカと久城一弥とで謎を解決するストーリーとなっていくのだが、その過程が滅茶苦茶面白い。何かのモチーフにしたような事件が起こり、それらは二人には知らされていないがゆえに周りの反応を見つつ、対策を練りながら、どう行動すれば良いのか考えていくヴィクトリカと久城一弥の図が最高なんですよね。

しかも、船の上という海の密室という中で逃げるという手立てはない。だからこそ、ただ推理して謎を解けば良いというものではなくその先にある自分たちを守る術を考えなくてはいけない。よく推理小説では大人という優位な立場で警察や味方がバックについているからこその緊迫感のない謎解きが行われるが、対してこの作品では幼い少年少女としての弱さを持ちつつ、周りの大人に対してどう感じるかという部分で心情に注目しつつ彼らの言動に心を震わせて欲しいと思う。

推理自体もそれほど難しくはないけれどもその先にある重い背景を考えると、それらを含めて予想出来たという人は少ないと思っている。しかも、その中にはどうしようもない結末が待っているわけで、ヴィクトリカと久城一弥の物語としては読了感がいいけれど、人の泥臭い一面を見るため、ミステリ嫌いであまり耐性のない読者にはオススメできない。ただ文章だけで構成されているので、推理ドラマよりもグロくはないと思う。けど、その分想像を巡らせるとホラーっぽくなってしまうので、その部分では素晴らしい作品だった。