明日、ボクは死ぬ。キミは生き返る。 (電撃文庫)
藤まる
アスキー・メディアワークス (2013-02-09)
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世界観

[SF][日常][恋愛][妹][残念][コメディ]

あらすじ

生まれつきの恐い顔のせいで、学校で浮きまくっている坂本秋月。彼はある夜、一人の少女の事故現場に遭遇し、謎の人物から究極の選択を迫られる…。『お前の寿命の半分で、彼女を救うか?』秋月は寿命と引き換えに少女“夢前光”を救った、はずだったのだが…なぜか秋月の体は1日おきに光の人格に乗っ取られるというおかしな展開に―!始まってしまった二心同体の交換日記ライフ。イタズラ好きな光の人格は、トンデモな出来事や仲間を次々に引き寄せ、秋月の低空飛行人生を一変させていく!交換日記の中でしか出会うことのない「ぼっちな俺」と「残念な彼女」による、人格乗っ取られ型青春ストーリー。第19回電撃小説大賞金賞受賞作。

短文感想(ネタバレなし)


良い意味でも悪い意味でもコメディまっしぐら。そこにラブと変態成分注入。シリアスとなるSF部分は出来るだけなくして、読者が笑える雰囲気を作り上げたのはいいけれど、一回落としてまた釣り上げないと、そこの笑いの差が生まれないわけです。こんなに残酷な状況なのに、こんなこと言って笑ってくれている。そんな雰囲気をぶち壊してしまうようなギャグの連発。

そして、数々のラノベのオマージュとパロと言ったほうがいいだろうか。パロは完全に元ネタがわかるようになっているだけのもので、そこで笑える要素はかなり少ない。オマージュは『俺妹』に『兄愛』に『はがない』という感じで売れ線ラノベの組み合わせで作られた二次創作に近いものを感じました。だから、面白みがないというかそれだけだったらその作品を読むわ、ってなりそう。

だけど、そのギャグが読者にとって面白かったり、クリーンヒットしてくれれば、かなり楽しめると思う。一人称の主人公視点で見るもう一人の女性人格、光との交互のやり取りで笑いを取りにきているのはわかるんだけど、その笑いが到底プロレベルには思えない。流行の最先端を行く笑いではないことは読めばわかるので、傾向としてネットスラング系となる2chを主流にした笑いと、『俺妹』を真似した世界観が楽しめるかどうかにかかっている。

ギャグは10回中1回でも読者の心にヒットすれば、それだけで読む価値はあるという私の理念でいくと、何度も連発するギャグの中で50回中1回くすりと笑えるレベルなので、ギャグにあまり真新しさは感じられなかった。せめて既存のギャグを我流にして色々アレンジしていけば面白くなったと思うのにこれは残念。もし、このまま、こんなコメディで突き進むというなら、次巻以降の心配があるわけです。

で、肝心のストーリーなんだけど、これはあらすじでも書いている通り、残念な彼女を活かすためにどうしても『はがない』風味にしなくてはいけない。むしろ、あらすじに「残念」と書かれている時点でオリジナリティがなくなってしまう。真っ当な『はがない』を真似して、そこに無理やり作者らしさを出しただけなので、目を見張る部分がないのが痛い。

なら、『はがない』に勝てないまでも、『はがない』に似たキャラの面白みを追求して欲しかった。先が読める展開だけに、ご都合主義を感じさせるのもマイナス。もう展開がテンプレすぎて、2chの世界に引きこもっていれば誰でも書けそうじゃん、といっては失礼かもしれないけれど、キャラの心理変化がおかしくて、作者の恋愛妄想が具現化しただけの作品という気がしないでもない。

作品のデメリットしか話していないので、メリットの話でも。光のキャラが何というか崩れそうで崩れない崖際に作られた建造物のように何だか危険な匂いがするのがグッドでした。それがこの作品の核心でしょう。先ほども言った通り、一言で表すなら『残念』なんだけど、読み進めると少しは違う節もちらほら見られて、彼女ならどう反応するんだろうという楽しみはあります。まあ、普通に予測出来るんだけどね。でも、時折予測出来ない行動に出てボケ役を演じる。そこに秋月のツッコミが入るわけで、そのツッコミにもバリエーションがあるので、ここはこの作者の強みだと思います。

それと見た目は不良っぽいんだけど、根は弱っちい秋月(ここも『はがない』の主人公と被るので、どうしても二番煎じに見える)が精神面で成長していくという所は感情移入さえ出来ればキャッキャウフフな展開に妄想を巡らせれば、ある種の萌え願望を満たせるかもしれない。だけど、これはMF文庫Jの十八番なので、そのレーベルに所属する作者たちには当然勝てないわけで、角川のメディアファクトリー(MF文庫J)の買収による差別化が図れなかったために電撃らしさは消えているので、ちょっと不思議な感覚を味わいました。

だけど、クライマックスのカタルシスは得られた。きっと最後の話が良かったから受賞したんだと思う。いや、思いたい。そこだけは良い意味で素直に裏切られました。この流れでいけば確実にストーリーとしては不完全燃焼に終わるだろう、と上に書いたデメリットだけの最低評価を下しそうだったら、まさかまさかの展開。

最後のまとめ方が上手かった。綺麗に終わった。色々と謎は多いけれど、これだけでも十分満足を得られる作品だと思えました。だけど、最後の行だけ気になりました。もうこれで終わりです、って感じでまとめとなるセリフか何か書いてくれれば良かった。終わりかどうかわからずに次のページをめくったら、あとがきというのも、せっかくの読後感が台無しなような気がします。

でも、読み終わった後に、この作者の次の本を読んでみたいなという好奇心にかられるということは私もこの作品をボロボロに言いながらも愛してしまったんでしょうね。