塔京ソウルウィザーズ (電撃文庫)
愛染猫太郎
アスキー・メディアワークス (2013-02-09)
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世界観

[ファンタジー][バトル][中二病][シリアス]

あらすじ

鉄の箒にまたがった魔女が、夜空を滑走する。ここは「塔京」。ソウル・ウィザーズが集いし魔法の都。自分の魂を改造し、死者のソウルを消費し『奇跡』を起こす者達をソウル・ウィザードという。時計塔学園・双児宮に所属するウィザード・黒乃一将は、『自由騎士』として、自身の守護霊である不死の魔犬ブリュンヒルデと共に「児雷也」討伐クエストの任務に就く。動物霊召喚専門の異名を持つ一将は奇策により「児雷也」に勝利。焼け残ったアジトから、金髪の少女の姿をしたデバイス「ソフィア=04」を発見する。それは、一将に幸運と凶運をもたらし…。第19回電撃小説大賞銀賞受賞作。

短文感想(ネタバレなし)


この作品は好き嫌いがかなりはっきりすると思います。好きな人はこの世界にすんなり入れるでしょう。嫌いな人はもう読むのが苦痛だと思います。私は思いっきり後者で、もう投げ出したくなりました。なので、この作品に好感をもっている人は読まない方がいいかと思います。まず、タイトルに『塔京』って入っているから嫌な予感がしたんだよなー。作者はきっとこんなノリで作ったんだと。

「最近、東京行ってきたんだけどさー、あの空気はヤバイ」
「どうヤバイんだ?」
「もう、『凍狂』って感じかな」
「俺には『盗凶』にも見えるけどな」
「面白いな、それラノベのタイトルに使ってみようぜ」
「『凍狂』はうすた京介が使っているからな」
「じゃあ、『塔京』にしてバベルの塔みたいにしてみようぜ」
「そうだな、じゃあ、首都は『死都』だな」
「12に別れた組織を作れば複雑な設定もいけそうじゃね」
「そうだよ。組織にも階級を作れば何巻でもいけそうじゃん」

という感じで書いたように思えました。少し例を挙げると、冷蔵庫は『霊蔵庫』で、高円寺の商店街は『超・高円寺純情商店街』です。どうです。面白く思えてきましたか。私には中二病もオヤジギャグも全て通り越して、痛くて見ていられなくなりました。もうネタだと思えるぐらいにこういうチョイスばかりで色々な設定をパクってきているような印象を受けるけれど、もうそれらがごった煮になっているから、ある意味、オリジナリティ溢れる作品になっています。

だけど、これで面白ければいいんだけど、何というか、これこれはこういう設定で、こういう仕組みになっているんだ。へー。じゃあ、次はこの説明をしよう。あー、私わからないことが一杯あるので、もっと具体的に説明して下さい。仕方ないな、説明だけで200ページを超えちゃうんだけどいいかな。全然問題ないと思います。ちょこちょこバトルを入れれば設定だけでも面白いと読者は感じてくれると思います。私たちのソウルをフィーリングしてくれる、かと。

何ていうか、私が読んだだけでも、これは川原礫や川上稔に憧れて、設定は一杯入れた方がいいかな、って思って、肝心のストーリーの本質がなくなちゃったって印象です。これを読んでも何も伝わってこないというか、面白みが全く見いだせずに終わりました。バトルもなんだかやっつけなので、もっと設定を活かしたストーリーを終盤に出来ればいいのに。

もう、苦笑の連続で、主人公は何回舌打ちをすればいいんでしょうね、とツッコミを入れたい衝動に駆られるかと。それと、2人(正確には1人と1匹)ならセリフも交互にしているのでわかるけど、3人以上の会話で誰が喋っているのかわからなくなるので、もう会話のはじめに戻ってから考えることになるのも問題だし、ページのほとんどが説明描写、状況描写、設定描写だけになるので、人の感情が大雑把になっていてなんだかなぁ、と、舌打ちを鳴らすはめに。

かといって、川原礫や川上稔みたいに設定も緻密に練られているように見えるわけでもなく、それを有効に使えることがあまり出来ていない。なら、ここは削ったらという箇所が何箇所もあって、そして、一番大事な所は描写されていないので、そこで重箱の隅をつつけばいくらでも、設定の重大なミスが見えてくる。

マイナス部分はそれぐらいで、プラス部分が上回ったからこうやって賞を取れたんでしょうね。『灼眼のシャナ』シリーズが終わったから、その後釜としてこういう作品を受賞させたのかな、と邪推してしまいますが、『シャナ』は人間としての感情を大事にしているためのバトルなので、そこに何か意味を見いだせる。だけど、この作品では最終バトルになったときに、何の感慨もない。取ってつけたような設定が逆にマイナスになっている。

でも、最終バトルになってようやく『読める』ものになったと思います。そこまでどれだけ退屈を我慢しなければいけないかという勝負で最後はなんとなくよかった。そう思える作品ではあるけれど、これだけ設定資料集的な第1巻ならば、次巻以降でどう設定が活きてくるか見ものです。あとがきを読むと、これが執筆作の2作目ということで、ある意味、将来性は感じます。

2作目だから最初は下手であっても、段々と作者も作者なりの王道パターンを見つけていくことによって、面白いストーリーが描けるようになったら、シリーズとしてはそこそこ期待してもいいのかも知れない。この作者に欠けているものとして、やっぱりキャラの感情で、その心理面やセリフのニュアンスなどが弱すぎて感情移入出来ないのが辛い所です。その部分を最後で頑張った感じですが、何だか読後感が良くないというか、そこだけは何とか巻を重ねて習得して欲しいと感じました。

それを電撃縛りの3巻までの間に本領発揮できるのかはわからないです。個人的には、それなりの力量と運をもった作者だけに新シリーズでやって欲しいという願いがあります。