イルミネーション・キス
橋本 紡
双葉社
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世界観

[仕事][友達][恋愛][姉妹][家族][シリアス][泣ける]

あらすじ

デザイン事務所で働くOL西野は上京して数年、東京での日々に流されるまま生きてきた。同じことの繰り返しのように見えた日常の中で、年下デザイナー伊藤の存在が、ふと気になりはじめ…。不器用な生き方の二人が恋を始めるのに必要なのは、イルミネーションに彩られた街なかで、今この瞬間に交わすキスだった―(表題作)。誰もがそっと胸にしまってある大切なシーンを、やわらかな筆致で呼びおこす5つの物語。

短文感想(ネタバレなし)


最高の短編集だった。一つひとつは地味な物語なんだけど、その日常の中でも心の中での葛藤や表情として表れない喜怒哀楽として文章化されて痛いほどに心に迫るものがあった。

人によっては何も起きない、何を言おうとしているのかわからない物語として片付けられるかもしれないほどにありきたりな印象を持つほど普通だった。だけど、その普通が登場人物によって性格や思考が異なるために、ありきたりな出来事がまるで人生の転機を短いページの中で感じられるように描かれている。

その短編は橋本紡らしい女性視点のモノが多いけれど、その女性らしさが読む度に極めているような気がして、作者が男性だとは思わないほどに女性を知り尽くしている。

私がここで女性というイメージで描かれた感情を肯定したとしても、私自身は男性なのだから、女性というものはやっぱりわからない。だけど、女性が感じていることはなんとなくわかる。男性と女性は違う。それは世間の目から見ても、人生の生き方としても大きく違ってくる。

そこに女性特有の思考と感じ方をこれでもかというぐらいにえぐく描いている。えぐいのにどこか温かい。女性の悪い部分と良い部分が対立しあって、最終的に読者がどう思うかという部分での問いかけもなされている。だからこそ、共感できる登場人物もいれば、全く共感できない登場人物もいる。

だけど、その共感がなくても、そういった人間の思考パターンが様々であることを認識させ、そして、理解させようとする橋本紡の世界が広がっていた。それに加えて、大人の女性や男性の短編モノもあって、社会での仕事や家庭についてリアル感たっぷりに痛烈に描いていたのが橋本紡のこれからの可能性を感じさせた。

橋本紡は若い学生モノが多いだけに、大人となって仕事をしている人間の思考はこうじゃないか?という感じではなく、大人の人たちはこうなっていると断言できるくらいに現場を調べてあって、デザインやIT業界などの専門職のこともわかりやすく、そして、詳細に描かれていた。

それは大人になっても厳しいことや悲しいことや辛いことがあって、それは子供の頃から変わっていないかも知れなくて、だけど、大人になって変わった部分も多くあって、それを読者がどう感じるかによって、この作品に対してのイメージが大きく変わると思っています。