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最高のミステリーを見させてもらいました。ミステリーはトリックを推理するだけの作品が多い中でそのトリックが一つに収束しその動機となる部分での悲哀と絶望と犯人との交渉や犯行協力など本格ミステリー以外での楽しみ方が出来ました。


「期待」という言葉は軽々しく使ってはいけないというのを里志が身を持って経験する導入は最高でした。せいぜい期待しているよって言葉は本人にとって本当に期待しているわけではなく、とりあえず自分に追いつくぐらいに頑張れよってことなんですよね。

かなり期待しているよ、だとかなり頑張れよってことで、期待という言葉が頑張れという意味合いに変わりつつあります。その中でもデータベースを名乗る里志だからこそ、言葉の意味を深く理解してその言葉を吟味する。

「期待」というのは本当にその期待に応えてくれるという意味で使うべきなんですよね。それが里志から奉太郎への期待。だから軽々しく言葉を扱ってはいけないと思っているからこそ、里志の一言一言に意味があるような気がしています。

十文字事件の真相


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それにしても、今回の十文字事件。今までの事件と違って長編だけあってかなりの難問でしたね。本当のミステリーに思えてきました。今回の事件についての推理は放棄するほどに難しかった。

これを初見で解けるような人が本当に才能のある人間なんだろうな。でも、総務部の誰かというのは察しがついてました。むしろ、それ以外だと里志の言う通り何千人の容疑者の中から探しださなきゃいけない苦労が待っているわけで、それを解くとなるとこの話をもっと長くしないといけない。

しおりにある人物という意味で総務部なんじゃないか?というずるいやり方で絞っていました。だけど、次々とはめっていくピースの欠片が気持ちよくてやっぱり『氷菓』はミステリーがあると格段に面白くなると感じましたよ。「ク」を飛ばした理由は本気で驚いた。逆転の発想だね。お手上げだよ、奉太郎。

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しかも、推理して行動するまでを奉太郎一人でやることで古典部に迷惑をかけないで、古典部のために動く。なんだか省エネの奉太郎にしては献身的ではないでしょうか。

しかも、一見ゆすりに見えてしまうようなことまでして自分の身を危うくする必要はないけれど摩耶花が発注を間違えたことに対して頑張っている姿を見ているからこそ、本当に捌ききって喜んでいる摩耶花が見たかったからなのかも知れません。だから、えるにも教えなかった。

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いや、えるの純粋無垢さならそんな危ないことは珍しく部長権限を振りかざして反対するに決まっていますものね。しかも、犯行に協力して共犯となる。それは正義感の強いえるには教えられないし、奉太郎もそういった暗躍は見られたくない。卑猥な話よりも犯罪に絡む話だ。

それだったら卑猥で見られた方がいいですね。だからこそ、里志だけに頼んだ。その里志は摩耶花に教えてしまったけれどね。でも、意外に口が堅い摩耶花ならえるに伝わることもないでしょう。

むしろ、奉太郎に期待している里志としては報われない奉太郎のためにも、摩耶花のために動いていることを摩耶花自身に知らせたかったのかも知れません。少しは摩耶花も奉太郎のことを期待していいのかもよ、と。

「データベースは結論を出せないんだ」


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で、里志の結論「データベースは結論を出せないんだ」。里志の常套句ですね。つまりは結論を出してくれる人間に頼るしかない生き方を選ばざるを得ない。奉太郎のような結論を出せる頭がキレる人がそばにいないと解決できない。それは一人ではどうしようもないという諦めにも似た言葉。

だから、摩耶花は里志のその思いを汲み取って、学ランを引っ張った。それは一人でなくても私たちがいる。ちーちゃんも奉太郎もいるから、そこまで自分に悲観しないでというアピールだったと思う。

まあ、これが私がいるよということで、その結論役を摩耶花が引き受けるまで成長するということであればデレデレシーンに早変わりなんですけどね。きっとそういうことではないように感じた。むしろ、そういったネガティブな感情の発散として私に話して、という意味が一番合っているかもしれないですね。

河内先輩の悲哀と摩耶花のそれぞれの悲哀


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で、河内先輩と摩耶花の話があった。これを待ってた。この決着がつかない限り、カンヤ祭は終わらない。決着って言うと摩耶花がまたムキになってしまいそうだけど、それだけムキになるほど好きなマンガについてけなされたら反抗する気にもなりますよね。

だけど、それは本心ではないということを摩耶花は気付かないといけなかった。周りの先輩たちはわからないけれど、ちょっとだけ可愛い後輩を可愛がりたかった。ただ、それだけ。でも、それがお互い不器用だからこそ、対立構造になってしまったけれど、根本にある部分は一緒なんですよね。

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マンガが好き。ただそれだけで嗜好や趣味の違いはあれど、楽しみながら人生の趣味の一環としてマンガを読むことや描くことを目指してみるのもいいじゃないってことなんですよね。でも、河内先輩がこうやって冗談みたいな人付き合いの下手さって、嫉妬が根本にあるかないかなんですよね。

摩耶花は普通にスゴイスゴイって思う。だけど、河内先輩はマンガも読まない友人の処女作を読んで途中で断念した。面白いと感じてしまったら、才能の渦に巻き込まれる。きっとこれからもマンガを愛することができなくなる。そんな不安があるからこそ、自分より面白いマンガに対しての恐れを抱えてきたのかもしれないですね。

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高ければ高い所に位置する人間であれば人は諦めてその作品の面白さを手放しで賞賛できる。だけど、身近な人間であまりマンガに興味のない人がいきなり高みに登りつめてしまったなら、諦めより絶望を感じてマンガに対する愛も失いかけてしまう。

ただ面白ければいいってものではなくて、その面白さを自らに課すか探究心や好奇心から追求するかで河内先輩と摩耶花とで人生観が大きく変わってしまったのかもしれないです。

そういう意味では本当にマンガを愛することができる日が来るのだろうか?となんだか河内先輩が不憫に思えてきました。で、名作に近い『ボディートーク』では河内先輩にある程度しか対抗できないという意味でもうちょっとだった摩耶花の印象と名作の『夕べには骸に』はどっちも面白いとは感じているんですよね。

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だったら、それを伝えてあげて名作になるまでもうすぐです。と言ってあげたい摩耶花としても河内先輩が『夕べには骸に』に絶対勝てないと思ったのと同じような悲しみを河内先輩の『ボディートーク』を見て共有しているんですよね。

摩耶花の方がもっと非道くて挫折しかけている人間が描いた『ボディートーク』に百枚落ちるんですから、『夕べには骸に』なんて近くにいた人だったのに遠い存在でこんな自分が頑張っても無理な世界なんだろうかって考えてしまう。

お互いスゴイ人が近くにいるけれど、そのスゴイ人と自分を比べてしまうとどうしても創作意欲がなくなってしまう。頑張っても努力しても勝てないだろう絶望感。そんな寂しさが滲みでた回だったように思います。そういう意味では里志が奉太郎に抱いたのと同じ悲しみを摩耶花は感じたのかもしれないですね。

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米澤 穂信

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