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本当にサブタイ通りで痺れた。この4話完結の物語を締めくくるに最適かつ最高な終わり方でした。もう心を締め付けるけれど、希望が見えてより一層この作品の主旨が好きになりました。


里志の叙述トリックの部分はかなり納得した。里志としては奉太郎のことを慮って発言していることにも。里志には奉太郎のように真実を見つけだすことは出来ない。それは奉太郎のようにトリックを見破るような感覚で完璧に間違いを立証出来るものではない。

だけど、それが真実か虚実かは判断出来る。証明には必要不可欠なものが色々と足りていないけれど、データベース故にそのデータが改ざんされていたならそのデータに狂いがあることはわかっている。その狂いに対してまたみんなで考えようということは言い出さなかった。それが里志の優しさなんですよね。

里志の優しさ


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別に奉太郎が出した結論にケチをつけたいわけでも、文句を言いたいわけでもない。それだったら、里志はえるや摩耶花がいないことを確認しない。むしろ、一緒にいれば間違いを指摘してそれをみんなで一から考えなおそうって思うはず。

だけど、もう完成してしまった。奉太郎としての結論は出ているわけで、その結論を覆すことになるなら、省エネ主義の奉太郎の意志を無碍にすることになる。いつもなら、えるを納得させればいい。今回は多数の先輩たちと入須先輩。

だから、その目的は達成したわけで真実が見えないまま終わっても、任務完了になるわけで何の問題もない。それが本郷先輩の意志か奉太郎の意志かの確認がしたかった。里志としてはただそれだけが聞きたかった。

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奉太郎のプライドさえ守られれば、親友の里志としては諦められる。里志の中では真実は眠ったままで終わるけれども。だけど、ここで気になった点は里志は本郷先輩の意志を尊重した点なんですよね。

里志の中で本郷先輩の気持ちが入り込んでしまったのだと思う。それはあのサークルの中で本郷先輩がどんな気持ちで脚本を書いていたのか考えると、それが自分の意図したものでないものが完成されて、それが絶賛されるなら本郷先輩としてはいたたまれない気持ちになる。

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一人の天才がいれば自分なんていなくても良かったんだ、と。本郷先輩はいつまでも補欠のままで賞が取れないままになる。せっかく入須先輩からも支持されているのに。その入須先輩は奉太郎の案を結果的に選んだのだから、本郷先輩の脚本の結論が結果的にないものにされてしまったわけで。

それだったら、里志としてはあの映画は奉太郎の案で、本郷先輩が考えたものではないとした方が、本郷先輩としては責められることも、自分を責めることもなくなるような気がして。

そこだけは里志が譲れなかったという意味では、誰かを納得させるよりも、一人の人が傷つく思いをさせたくないという気持ちが強くなったという意味では里志も情熱や人の思いをより一層考えるようになってきているんだなぁ、と感じて心温まるシーンでした。まあ、結果的に奉太郎の心はボロボロだけどねw。

真相の真相


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で、一番感受性の強いえるとしては攻める方向が違っていて本当にこの子は可愛いって思える。奉太郎の一番苦手な人間関係から攻めるというのもミステリーとしてはある意味斬新な試み。

まあ、刑事ドラマではトリックがどうというよりもまずは被害者が殺された動機を丹念に調べるから、人間関係で周りがどう思っているかという部分で一番近しい江波先輩のことに気づけたのは大きいです。えるらしい。

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で、で、今回の物語は最高に良かった。鳥肌たちましたよ。一連の推理物語の結末がこんなことになるというのが予想できなくて、まさに愚者のエンドロール。これは説明するまでもないですけど、愚者は奉太郎でえるみたいに感情を追いかけた結果、その推理の裏側に辿りつけた。推理をしてもらうという舞台を設置した入須先輩に。

奉太郎が入須先輩に弄ばれたように視聴者も弄ばれたわけですね。推理の要素が最初から間違っていれば、その推理は必然的に愚者にならなければわからなかったという。敏い人ほど自分の考えだした推理に溺れる。でも、その難しい推理は好まれる。この循環が今回の悲劇の結末を迎えたわけですね。

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この結末だと、入須先輩を仕向けたのは奉太郎の姉で、それで弟を試そうとした。それだけ弟を買っているということになるけれど、むしろ、弟を少しだけ愚者にして欲しいってことなんだろう。

けれど、この「愚者」って言葉が気に入らないのは、感情や人の心を読むという意味では推理とか頭を使って難問を解くような人よりも頭の点で劣っているという意味でその思考を止めてしまうという意味で愚者っぽい。

ゆえに人の感情だけに目が向いてしまう愚か者というだけのような気がして、今回えるのような感情から気づけたのは結果的に知的な人よりも優れている上に、その優しさ故に愚者ではなく人間らしさを持った人間だと思う。

チャットでわかる本郷先輩の意志


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でも、本当にこの推理事件の顛末ってひどいですよね。本郷先輩の性格や立場が明らかになっていった結果、やっぱり本郷先輩は不憫なまま終わってしまうんですものね。本郷先輩としては「みんなで、できたってばんざいすることでしたから」というのに涙腺が緩みましたよ。

彼女の本当の声というのは今まで間接的に聞いてきたが故に推測の域を脱しなかったけれど、その一つの声だけで今までの推測が全て肯定されて、やっぱり本郷先輩はそういう環境を強いられて、その立場でも必死に頑張ってきたことがわかってこのチャット画面を見ているだけで辛い。

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でも本当に本郷先輩の望みは「みんなで、できたってばんざいすることでしたから」でいいのだろうか? それだけは気になっていて、今までは漢字を使っていたのに、この一文だけ平仮名なんですよね。変換するのが面倒だってことでもなさそうで、なんだか気持ちを押し殺してキーを打ち込んだかのようなそんな感覚。

その一文を見て入須先輩が考えたのも気になりますし、勝手に推測するにこの「みんなで」の中に本郷先輩が入っていないという部分が大きいのではないでしょうか。誰もが幸せであるならそれでいい。

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その考えは奉太郎に脚本を創らせて面白いものにしてもらうというもので、入須先輩の行動を見ると、本郷先輩を買っているけど情熱だけに留まって技術はない者として見られているのが可哀想なんですよね。

せっかく本郷先輩にも心の許せる友がいたけれど、結局は入須先輩も本郷先輩をそれほど期待していなかったということが悲しい現実ですよね。

奉太郎の話だと製作中の映画が本郷先輩の思ったものと違っていて、つまりは現場の人たちがアドリブで脚本通りに動かなかったから、その後の人が死ぬ脚本を書かなければいけないということが本郷先輩にとっては辛いと感じたのでしょう。

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だから、その後は頭の切れる人に任せて、お前は隠れていろってことなんだろうけれど、本当に本郷先輩を買っているなら、現場で脚本通りに動かない人たちに入須先輩が喝を入れて、その現場を何とかするべきだったんですよね。

まあ、そうすると、現場からの反感を入須先輩と本郷先輩が受けるわけで、その糾弾を本郷先輩が耐えられないのだと判断してのことだったら良い話になる。だけど、それが出来なかったのかやらなかったのかはわからないけれど結局奉太郎に先を任せてしまった。

入須先輩としてはやっぱり本郷先輩の書いた脚本が面白くなかったという結論になりそうで、それが優しさの裏側に隠れた「嘘」なんでしょうね。だから、奉太郎に対しても、その「嘘」をついた。心と言葉が一致しないでも平然と「嘘」を語れる入須先輩が一番の悪者になりそうです。

「嘘」に対しての奉太郎の表に現れた感情


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で、その「嘘」に踊らされた奉太郎の推理が感情的過ぎて泣けてきた。なんでしょう、悔しさだけじゃない。やるせなさでもない。虚しさでもない。騙された怒りでもない。いや、もしかしたらそれを全部まとめた感情かも知れない。そんな言葉にも出来ないような表情で奉太郎の新たな一面が見られたけれど、そんなの嬉しくない。

これだけ奉太郎は熱意をもって喋ることが出来る。それはまた新たな才能かも知れない。驕り高ぶった部分を全て削って出てきた、えるの思考模写。そこから、やっぱりえると同じように真実を知りたいという衝動に駆られて、入須先輩に向かう奉太郎の本気。

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人に対しての疑問や疑念含めて、言葉だけじゃない本当の信頼というのに気づきはじめたんだと思う。世の中は良い人ばかりではないというバッドエンドにも見えるけれど、本郷先輩の思いが知れたことが大きい部分で、本郷先輩を知ることでよりえるのことを知ることが出来た。

それは奉太郎の才能や技術が優れているかはまだわからない。能ある鷹は爪を隠す。その爪を教えたのは奉太郎の姉だから、入須先輩が広めない限り、奉太郎の才能はまだまだ古典部だけのものかも知れませんね。

それが古典部としての才能なのか、奉太郎だけの才能なのかもわからない。今回は奉太郎が解いたわけではなくて、その古典部が解いたという意味ではなんだか嬉しいですね。

誰も死なないミステリー


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誰も死なないミステリー。あるにはあるんですけどね。でも、被害者が生きているわけだから、直接本人に聞けばいいだけだから、緻密なトリックを用意してもなかなか難しい。それこそ、高校生には大変だと思う。それに密室殺人、「みんな」にはきっとその言葉の響きが良かったんでしょう。

だけど、鴻巣先輩が刺した理由。刺された理由をお互いわかりあって、加害者の本意を知って密室に仕立て上げる海藤先輩の話の方が自分は好きだなぁ。

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奉太郎が創ったカメラマンが犯人というトリックで視聴者はスッキリするかもしれないけれど、そこに人間関係は入ってないんですよね。カットされているのかわからないけれど、ラストは犯人がカメラマンでした、という感じで終わっているので、その動機を語らないまま終わらせる実に奉太郎らしい脚本だと思う。

それとは正反対に本郷先輩は動機が一番重要な部分で、刺されたトリックとかはついででいいと考えたから羽場先輩でも見破ったようなもので問題ない。

その後の鴻巣先輩が何を思ったのかという部分で多くを語る部分できっと本郷先輩にとってはこのトリック部分は導入部分だと考えて、もっと長い物語を用意していたと思う。

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だけど、それを気に入らないからといって個性を消して流行を敏感に考える集団の思考に合わせるだけの脚本って、それこそ技術を捨てて情熱だけが残るものになりそうですよね。

でも、その情熱が今回は多く感じられて、技術よりも熱意といった新しい感情部分が奉太郎に芽生えてきて、古典部の中での奉太郎の位置づけの再確認だけでなく、奉太郎が必要とする古典部になってきそうで、なんだかこれからもより一層面白くなっていきそうです。

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米澤 穂信

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