氷菓 - アニメ画像018

楽天的なサブタイとは違ったサスペンスドラマ。そこには情熱と冷静の間のような試写会が待ち受けていた。そして、ヤキモキしてしまうくらいの謎が残されてしまったわけで、私気になります。


「天才は普通の人生が送れない」。とてもよい割り切り方だ。

人生は一度きりだというのをわかりきっているほどにわかってはいるけれど、なかなかそういう思考に至らないのもまた人生だ。人とは違った、いや、天賦の才があるという人より優れたと感じる人生を送ることもまた一興だけど、秀才という日々努力することで人より優れた生き方を目指しても面白いかも知れない。

氷菓 - アニメ画像002
そうして、人は人より良い生き方をしていると感じて優越感に浸れるのが人生の醍醐味だとも思う。だけど、努力を諦めて普通の人生という普通の生き方をするのもいいだろう。だけど、普通の人生ってものを突き詰めると、社会的な一般人としての立場ということになる。

それは途方もなく幅広く、途方もなく曖昧だ。だからこそ、天才であれ、秀才であれ、その生き方を普通と感じれば、やはり普通の生き方になる。

要は、最期に自分の生き方に満足できるかできないかの問題で、その生き方には人それぞれオリジナルのものがある。誰一人その人と同じ生き方を送れない。

だからこそ、人生は面白い。壁にぶち当たっても、天才との能力の差を比べられても、天才にはできていない人生を送れている。それは実にポジティブな発想じゃないか。奉太郎らしくない。

自主制作映画の醍醐味


氷菓 - アニメ画像006
自主制作映画となるとハルヒを思い出して俄然やる気になってきますね。今度はどんな稚拙な、いや、失礼、素人っぽさを演出してくれるのだろう?(棒読み)

−視聴中−
里志が事件の幕開けを言い当てる
静かに、と睨まれる奉太郎(摩耶花は好意故に里志を睨むことが出来ない)
心の中で弁解する奉太郎(静かに、という視線が言葉での弁解を許さない)
キャー、殺人事件だわ(棒読み)
−視聴終わり−

氷菓 - アニメ画像013
奉太郎たちが視聴する姿を視聴するといった不思議な空間がとてもいいですね。そして、その視聴作品がこれほどまでに感情を抑えこむことが出来る役者もなかなかいないのではないだろうか、という意見もいつもプロが作った映画を見ているからで、普通といっては普通なんだろう。

だけど、山を登って、館で殺人事件という尺的に短く悲しい結末は被害者の人生を物語っているようで、ある意味味わいがある。という褒め言葉しか思い浮かばないくらいに超展開過ぎてワロタ。

氷菓 - アニメ画像019
短命な人生に対して嘆き悲しむこともなく、ショックで立ち尽くすわけでもなく、涙を流して死者を悼むことも出来ない。そんな人間ドラマが全く見えない所に稚拙だという摩耶花の指摘があるのだと思う。「ミステリー」という言葉を使うには推理だけでないドラマ的深みがないとどうしても展開を楽しむというよりも、ただ流れていくムービーを惰性で見ているだけとなってしまう。

それはこの『氷菓』という作品が視聴作品『ミステリー』によって、単なる推理だけではない面白さを提供できているという作者の意思表示も含まれているのではないだろうか。素人と玄人の違いを見せつけられた格好だ。

氷菓 - アニメ画像020
そこに情熱はあるけれど、技術がない。その技術というのは役者の演技でもあり(私の目には情熱の欠片も見えなかったけれどw)、カメラ撮影のテクニックでもあり、台本の面白さでもある。

だけど、ここで自分たちが情熱(という創作意欲)はあるけれど、技術がない故にこんな作品に仕上がってしまったという言い訳にも聞こえる。

もっと胸を張って、自分たちは自分たちなりに努力したという自負があってもいいのではないだろうか、と考えてしまう。何故にそんな冷静に自分たちの作品をバッサリと切り捨てられるのか。そして、摩耶花もおべっかを使うでもなく、単刀直入に言ってしまうのだろうか。そこがまさに「ミステリー」。

「けんとうを」


氷菓 - アニメ画像008
奉太郎たちが視聴する前の入須先輩の一言が「健闘を祈る」ではなく、「けんとうを…」というのも上手いなぁ。

この人、わかって使っていたら、素晴らしいセンスがあると個人的には思う。犯人の「見当を」付けて欲しい。頭の中でこの作品に対してどう思ったか「検討」して欲しい。

そして、そんな彼らに「健闘を」祈ってしまったわけで、たった5文字なのに、こんなに意味があるとは思わなかったよ。

奉太郎、あとは頼んだよ


氷菓 - アニメ画像022
そして、いつも通りだけど、奉太郎頼りになる古典部の面々の信頼が熱い。里志の「データベースは答えを出せないんだ(結論は奉太郎が出す役割なんだ)」と、摩耶花の「そうね、私もちょっと自信が…(悔しいけれど奉太郎なら)」と、えるの無言で「(折木さんならもう真実を知っていますよね)」という三人の前振りが面白すぎる。

奉太郎へのプレッシャーにならなければいいのだけど、期待とプレッシャーは紙一重なんですよね。

氷菓 - アニメ画像023
それを毎回乗り越えなければいけない奉太郎はある意味周りから天才として見られつつも、普通に生きると思っている奉太郎自身の気持ちが入り交じって、天才と普通の中間の人生を送れている稀有な存在な気がする。

とりあえず、奉太郎の見せ場だよと劇中の役者以上の演技を見せる里志と、奉太郎が応えられないという失望感をいつの間にか期待しなくなった摩耶花と、落胆させたくないような目で訴えるえるがいて、羨ましいと感じると共に期待って怖いなぁ、って感じますよw。

『ミステリー』は本当に仕上がるのか?


氷菓 - アニメ画像021
で、『ミステリー』の謎を解く奉太郎に期待したわけだけど持ち越し。

まさか『ミステリー』から謎を解くのではなく、『ミステリー』を作った経緯で謎を解くというのはかなり新鮮ですね。それに回を跨ぐのも初めて。私、気になって眠れません。本当、気になります。

入須先輩は『ミステリー』の中で謎が解けると言った。これが嘘でなければ、奉太郎、初めての降参だ。だから、探偵役として奉太郎との古典部の威信をかけた戦いが始まるわけで、これは面白くなってきた。

氷菓 - アニメ画像005
だけど、脚本には1時間の尺を想定した上で作っているのだから、犯人がわかったとしても、入須先輩の言う通り、それは自己満足でしか終わらないような気がする。ただ、事件が起こって、犯人がわかる。

そんなストーリーでは、せいぜい頑張っても20分弱のものになってしまいそうで、本当に描きたかったのは謎を解くという部分ではなく、何か別のものではないかと考えてしまうのは考えすぎでしょうか。

氷菓 - アニメ画像000
弔い合戦(死んでない)という名の古典部への挑戦状。入須先輩の狙いはここにあるのかもしれない。冒頭のチャットの最後の言葉としての「部員を引き連れて来てくれれば、私も嬉しい」。この言葉に入須先輩の気持ちが集約されている気がするんですよね。

ただ一緒に考えてくれるだけでも楽しいと思える。その楽しさを皆で共有しようではないか、という友達の一歩としてのきっかけ作りにも見えてくる。それはえるとのチャットだけでなく、えると古典部の人たちとの交友を目的としているならば、それは十分に達成されそうだ。

しかし、この『ミステリー』は現時点で解けるのかね? 原作既読者が混じっているならばネタバレとか平気でありそうで、関連記事とか見るのコワいんだけど。一応、私は未読者として適当に推理してみる。もしかして、当たっていたらネタバレになるっぽいので、それが嫌な方はここから先は読まないことをオススメします。

稚拙なストーリーに対しての稚拙な個人的推理


氷菓 - アニメ画像010
普通に考えれば、鴻巣先輩(ショートカットの暗めの女の子)が犯人っぽいよね。休める場所を確保しようと提案された時に、「あそこがいいんじゃないかな」と犯行現場に誘導して、鍵のある場所を知っていて、マスターキーだというのを一瞬で判断できた。

で、それぞれ各部屋に向かってすぐに戻ってきたわけだけど、その間は省略されたわけでもなさそう。なので、犯行時間が短いのですぐにフロアに戻って殺しに向かうのは現実的ではない。

だとしたら、その時間を短縮する行動が必要になる。殺された被害者の1階の隣は何もなかったと思うので、2階から1階に行って戻ってきた(もしくは被害者に向けて2階から何かを落とした)と判断するのが一番てっとり早そう。

氷菓 - アニメ画像016
上手い具合に被害者の上に鴻巣先輩が向かったわけだしね。だとしたら、何故鍵がかかっていた部屋で被害者は殺されたのか。窓は開いていたけれど草がぼうぼうで人が通った跡がないということで、一応これ密室殺人風なんですよね。1階の窓は鍵がかかっていなかったので、2階から入ってこれる事もできるけどね。

で、これが現実味のある話だと仮定すると、人間の腕はスパっと綺麗に切れるものじゃない。犯行道具は散らばっているガラスの欠片がキーになりそうで、かなりの重さがあってそれに重力のかかったガラスで切ったのだろうと推測する。

氷菓 - アニメ画像017
なんで切り離された腕が胴体とは距離の離れた所にあるのか気になるけどね。一応考えられる推理としては2階から1階に通じる空いた隙間からガラスを落として重力の力で被害者の腕を切る。

そして、2階から窓を開けて1階の窓から入り、ある程度のガラスの収集と切れた腕をちょっと離した所に移動する。そして、2階に戻ってフロアに出る。うーん、場当たり的で稚拙な推理だけど、高校生だったらこんなものだと思って見逃せる程度だと思う。

(2012.06.11追記 よくよく考えれば2階から降りる必要もないのか。大きな鋭利なガラスを落としてそのスピードで腕が吹っ飛ぶという過程があればいいだけで。だけど、この推理の一番の問題はガラスが割れる音が館全体に響き渡るということだからあり得ないんだけどね)

氷菓 - アニメ画像028
とりあえず、来週の答えを待とう。当たっているかどうかよりも、この『ミステリー』をどう料理してくるのかが一番気になる所なんですよね。奉太郎の姿勢が試される場面です。

氷菓 (角川文庫)氷菓 (角川文庫)
米澤 穂信

愚者のエンドロール (角川文庫) クドリャフカの順番 (角川文庫) 遠まわりする雛 (角川文庫) ふたりの距離の概算 春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

by G-Tools