アニメ画像001

奉太郎が里志と摩耶花の二人をえるの悩みに加えた理由。それは奉太郎の優しさと信頼の証によるもので、自らの未熟さをフォローしてくれる存在としての期待。


まあ、加えた理由を普通に考えれば、里志のデータベースとしての知識という宝庫への期待。摩耶花の鋭い指摘や反応速度への期待。自分にはないものを持っている二人なら謎を解く鍵をつかめるんじゃないかと思っていたというのが建前で、実際にはえるが一人で思いつめていた悩みを緩和するために、えるに対する感情の支えが必要だったものと思って加えたと勘ぐっています。

話せば楽になれるけど、したくない


アニメ画像006
人海戦術を使えばいいと提案した奉太郎に、えるは「こんなこと誰にでもするような話ではない」と前回言っていました。この時は奉太郎を信じて頼ってすがっていたという部分が強かったと感じましたが、今思えば、誰かに話して、その悲しみを出来るだけ拭い去ってくれる存在を増やして、悲しみを分散していけばいい。

人に話せばある程度気は紛れるし、その仲間との信頼関係も作れる。叔父が何かをしたとしても、それは叔父がしたことで、えるが何か問題を起こしたわけではない。むしろ、叔父が何か悪いことに加担していたとするならば、そのことについてえるを慰めてくれるだろう。

だけど、誰にでも話さなかった。話したくなかった。それはえるが今でも叔父のことを大切に思っていて、叔父の存在はえるの中で大きくなっているからこそ、叔父は叔父、えるはえる、そう割りきって考えてしまう人が多いと思うので、話せなかった。

アニメ画像011
別に45年前の話なんて、そんな気にすることないよ。えるは今を歩みなさい。などと御託を並べられては、今までのえるの叔父への思いを否定されてしまうかのようで、それがえるは嫌だったのではないでしょうか。

アドバイスをもらえたとしても、それはえるの叔父への思いが伝わらないといけない。でも、仮に伝わったとしても、えるには簡単な返事で言葉を濁すかも知れない。別にそれが悪いわけではないのですが、なんだかその人に対する信頼が薄れてしまいそうで、自分の気持ちをわかってくれなさそうで、今まで人に話すのが恐かった。

奉太郎が周りと違うと思った理由


アニメ画像000
でも、奉太郎は違うと感じたのでしょう。毎回動きたくないとは言いつつも、言動ではえるのことをいつも気にとめていて、それでえるの知りたかったことを嫌々ながらも提供してくれる。やりたくないことを、えるのためにやる。

自らの意志や本能に逆らってでも、えるのために行動する。要は奉太郎は謎が出没する前に逃げればいいわけで、それをしないということはえるのその性格は嫌っていないわけなんですよね。むしろ、好いている。古典部の部員という名目を使って、古典部の部室である、えるの所へいつも向かってくれる。

これは今まで省エネ主義の奉太郎と言えども、えるの知りたいという気持ちは無碍にはしないという無言の証明だったんだと思います。だから、言葉で叔父のことを踏みにじることもしないだろうし、真実を知ったとしても、えるの気持ちを慮って伝えてくれる。えるはそんな優しさも期待したのではないでしょうか。

真実を知ることが全てじゃなくて納得することが全て


アニメ画像002
そんな悩みに悩み抜いた末に告白したえるの気持ちを奉太郎はある程度知っている。えるが求めているものは真実ではあるけれど、残酷な真実を一人で背負いたくないという部分が強いと勝手に認識してしまうんですよね。

前にも奉太郎が思っていた点として、推理で謎を解いて真実を暴くことが主体ではなくて、周り(主にえる)が納得する答えを提供することだという点がこの作品の面白い所なんですよね。

別に誰かが殺されたとか、重い事件を扱っているわけではないので、その軽さが売りではあるわけで、例え間違っていたとしても誰も困らない。クロスワードパズルを解いてあとで間違っていたことに気付くレベルの軽さだと思います。要はこじつけでいい。えるが納得さえすればそれでいい。

里志と摩耶花を加えた理由


アニメ画像003
で、冒頭の話に戻りますけど、里志と摩耶花を加えた理由は、えるを納得させるためには観衆が必要。えるは人の考えに流されやすい子なので、その観衆の反応を見てえるが納得する度合いが強くなる。そして、奉太郎が真実をこじつけたとしても、里志という存在が上手くまとめてくれる。

要は奉太郎自身がえるのその重い悩みを一緒に背負ってあげる事が難しいと感じたから、里志と摩耶花も頼って欲しいと願ったのだと思います。今回の彼の推理ではえるがショックを受けた部分を流したみたいに見えましたが、まだ事件は続いている。

アニメ画像005
だから、まずはポジティブな発想で攻めて見たのだと思います。もし、えるがそれで納得して子供の頃のショックは錯覚だと考えてくれればそれで事件は解決。真実かどうかは無視してね。そうしたら、叔父のことは英雄として彼女の心で整理がついて、叔父に対するイメージも悪く終わらず、落胆しなくて済む。

でも、えるはそんな簡単には落とせないようで、やっぱり幼少の頃の気持ちは大事にしているんですよね。それがこの問題を難しくしている部分でもあり、奉太郎が一番苦手としている分野だと思います。

アニメ画像009
その部分で里志と摩耶花が重要になってくるわけで、奉太郎自身は真実を知りたいわけではなく、えるを救いたい気持ちで動いている。だけど、そんな感情部分では淡々とした言葉でしか彼女を慰めることしか出来そうもないし、その涙を彼だけでは拭い切れないだろう。

今回だって、里志と摩耶花はえるに対して優しい言葉や感謝や賛辞の言葉を何気なく使っているけれど、奉太郎はその点、器用に不器用だから、ただ心から出た言葉でしか表現できない。それは奉太郎の人間っぽさなので、別に悪くはない。

アニメ画像010
だけど、言葉でえるの心を救えるかどうかは微妙な所、不安な所でもある。なので、今はえるが真実を知りたいということで、彼女の本気度を知った彼は全力で協力しようとした。まずはえるが悲しい気持ちで終えないようなハッピーエンドに。

だから、実は彼が既に真実を知っていて、今回の事件の真相をこじつけているかはわからない。もしかしたら、悲しい真実を知って、まだえるが納得できずに奉太郎に迫った時に備えて、里志と家に帰る途中で摩耶花と一緒にえるが落ち込んだ時の対応をお願いしているかもしれない。

叔父を愛する気持ち、叔父を信じる気持ち、叔父を慕っている自分を愛する気持ち、人を嫌いにはなりたくない気持ち、そんな複雑なえるの心境を考えると、その一つひとつを壊すことないように支えることは一人では難しいと思った奉太郎の頼もしい味方に期待するしかないです。

アニメ画像007
それにしても、奉太郎の思考を働かせる部分での演出が好きだなぁ。初回のような文字に埋もれる演出もそうですが、ただ文字を羅列するだけでなく、その文字が動いて、彼の脳を通過して、それが積み重なって、ようやく真相に近づける。

奉太郎自身は止まっているけど、脳はフル回転させているそんな描写。これらの情報量を統率して一つの道標を見つけ出す、そんな彼の脳を割って調べてみたいものです(by える

氷菓 (角川文庫)氷菓 (角川文庫)
米澤 穂信

愚者のエンドロール (角川文庫) クドリャフカの順番 (角川文庫) 遠まわりする雛 (角川文庫) ふたりの距離の概算 春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

by G-Tools