ストーリー・セラー
ストーリー・セラー
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有川 浩
新潮社
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世界観

小説家][恋愛][青春][仕事][ほんわか][シリアス][泣ける]

あらすじ

小説家と、彼女を支える夫を襲ったあまりにも過酷な運命。極限の決断を求められた彼女は、今まで最高の読者でいてくれた夫のために、物語を紡ぎ続けた―。極上のラブ・ストーリー。「Story Seller」に発表された「Side:A」に、単行本のために書き下ろされた「Side:B」を加えた完全版。

短文感想(ネタバレなし)


これは泣ける。かなりの号泣もの。泣かせに来ているんじゃなくて、自然に泣いてしまえるほどに文章や言葉が頭に入ってきて、涙腺を緩める。それが哀しいのか寂しいのか嬉しいのか辛いのか、そんな感情はわからない。ただ単に涙が溢れるだけだ。でも、この涙は大切にしたいと思う。これが自分の心の鼓動や琴線だと思うから。

恋愛ストーリーを描くのが日本一上手い有川浩の最高傑作かも知れない。全てにおいて無駄がない。一字一句に意味がある。言葉の裏の裏にまで意味がある。そして、一ページめくるごとに色々考える。それは感情移入という言葉で片付けてしまうのが惜しいくらいに、登場人物への共感が半端ないから。

冒頭を読んで引き込まれた。そして、惹きこまれた。最初の数ページで未知の世界へと旅立ってしまった感覚を味わいつつ、少しずつリアリティのある世界に戻ってきて、恋愛の在り方というのを理想と現実というカタチで提示してくる。楽しい日々もあれば、辛い日々もある。だけど、総合的に見て、恋愛の素晴らしさを感じる。人と人がつながりを求めて、それが与えられた時の充足感を身に覚える。

感情面では男も女もどっちもサバサバしていて、結構気楽なノリで生活しているように見えるのだけれど、どこか家計という意味でのお金に対する厳しさが妙にリアリティで、普通に結婚して、マイホームを買って、子供を一杯産んで、育てて、子供が旅立って、老夫婦の暮らしになる。そんなリアリズムが崩壊している。世の中は厳しい。それがマジマジと感じられる。

だから、彼と彼女は頑張る。お互いに支え合い、愛し合い、助けあい、お互いに依存しあっているんだけれど、それが苦にならない。彼にとっては彼女がいるだけで幸せだし、彼女にとっては彼がいるだけで幸せ。そんな甘酸っぱい物語。言葉の節々から、相手を大切に思いやる気持ちが見られて、ほっこりするのだけれど、時々、不運もあり、人間関係の辛さもあり、暗雲が立ち込める。だけど、二人はそれを乗り越える。

愛と勇気が勝つストーリー。ただ、それが果たして正しいのか間違っているのかわからない。そんな大きな疑問をぶつけてくる。そこに答えはない。だけど、そこで考える面白みを感じる。心のケアは? 仕事は? プライベートは? 人付き合いは? 恋愛を通してみる色々なフィルター。そこから、読者は何を感じるか。

私は、彼と彼女のストーリーの核となる恋愛で微笑み、恋愛で泣きました。幸せと絶望は表裏一体。恋愛をすることで人はどう変われるのか。そんな問いを投げかけて、こちらは最後に答えを出していて、その答えにまた、号泣しました。

それとは別に、小説家というのも兼業作家というのも多いから、成功して小説だけで食っていくのは本当に大変なんだなぁ、と、つくづく感じました。野球選手もサッカー選手も夢を与える職業で、そのために選手たちが年棒を多くもらい、そのお金でリッチな生活を送る。それは夢を与える人の夢。だから、小説家も夢を与える職業だからこそ、小説家にも夢があるのだと思っていた。だけど、それは一握りでそれでもリッチではない生活を強いられる。

だけど、書くことをやめられない。やめたくない。自分の感情を小説という形にして他の誰かに読んでもらいたい。そして、自分を認めてもらいたい。実力社会ではあるけれども、自己承認するための他人からの賞賛が小説家の支えになっているんだと、改めて考えさせてくれるほどにリアリティのあるお話でした。

小説家を目指している人、泣ける恋愛小説が読みたい人、恋愛をしてみたい人、人生について深く考えたい人にオススメです。まあ、守備範囲が広くて、誰もが受け入れやすいストーリーを練ってくる所に、まだまだ伸び代があるという脅威の有川浩の作家としての可能性を感じました。最高です。