劇場版『そらのおとしもの 〜時計じかけの哀女神 -エンジェロイド- 〜』の感想です。

ネタバレなしで話すと、とても素晴らしい作品に仕上がっていました。
個人的には第1期のシリアステイストが大好きで、第2期はそれほどでもなかったので、
それほど劇場版には期待しないで鑑賞しました。

観終わったらねー。これはブルーレイ買うしかないじゃないw。

「少年に惚れた少女」に惚れてしまった。
これは美しすぎて、マジ泣きしました。こういうのは大好きです。
4,000文字を超える感想になってしまいましたが、これでも言い尽くせないです。

以下、ネタバレあり感想。

前半はほぼ第1期と第2期のダイジェストで、後半から映画としての日和編に突入する感じ。

サラッと、第1期と第2期のおさらいをしているので、この劇場版だけ見ても大丈夫だと思う。そういう意味での親切設計だけど、第1期と第2期を追いかけている人から見たら、退屈だったかも知れない。

だけど、日和から見た桜井智樹たちの新大陸発見部に対する興味と関心を交えることの醍醐味。彼女が観客の代役になることで、あくまで、そこに観客である彼女が新大陸発見部の一員になる喜びや楽しさを共感という形で感情移入させやすいようにしていたのだと思う。

そして、幸せな日々に終止符。希望を持たせて絶望に落とす。それはこの作品のラブコメ展開からの脱却を意味し、観客たちは深く考え、突然の緊張感へと誘う。それが今までの楽しさは嘘だったかのように、ドン底へ突き落とす。それは日和の絶望だけでなく、彼女に感情移入していた観客たちの絶望へとつながる。それが悔しくて、悲しくて、どうしようもできなくて……。


・劇場版日和編ストーリー概略

シナプス人は、羽根が生えてるだけの普通の人間。感情もあれば恋だってする。エンジェロイドは機械なので、プログラミングされない限り感情を持たない。

過去に大きな変動があったらしく、シナプス人たちは「起きたままシナプスで生き続ける」か、「眠りについて、夢というカタチで地上での生活を送る(その間はシナプスの記憶はない)」のどちらかを選んだらしい。

日和は夢の中で生きることを選んだ派。どうやらこっちが多数派だった模様。設定として、シナプス人の夢である日和(地上ver.)は、地上での人生が終了してしまった時点で全地上人の記憶から抹消される。

日和は智樹と恋に落ちた幸せな夢を忘れられなくて、トラック事故によって地上での生活を失った後も、地上に戻って智樹と過ごしたかった。その想いをマスター(ひよりと同胞のシナプス人)に利用されて、感情を失ったエンジェロイドに改造された。

以上、ストーリー概略 終わり


改めて、ストーリーを見直すと、すごく残酷な宿命を背負った彼女。一度の人生という短さは普通の人間と同じだけど、一度送った人生の淡くも切なくて愛しい思い出というのは、それが大切で大事であればあるほど、心の中での絶望が色濃く変化する。

取り戻せない思い出。取り戻せない記憶。そして、取り戻せない日和という名の少女の存在。彼女の人生が桜井智樹に恋する少女として、影から見守る存在として幕を閉じれば、まだ救いはある。

行動できなかった自分をちょっと責めて、片思いで終わって残念だったな、で済む。勇気がない自分には、それ以上を望まないし、あえて干渉しないことで、それ以下にもならないということで、日和という少女は影から見守るだけしか出来ない。観客と同じ第三者視点での桜井智樹が主演をやる舞台を見て、終演の物哀しさを感じるだけ。それは日和も同じで、舞台や映画で主演の子に憧れを感じた、ただのエンターテイメントの提供だけで済む。

だけど、干渉してしまった。桜井智樹の舞台に自分が入ってしまった。それは自らの努力や勇気からではなく、憧れた桜井智樹の優しさからで、それにただ甘えてしまっただけかも知れない。グリーンピース……。きっかけはそれだけだったけど、それが嬉しくて、戸惑いを隠しきれなくて、ちょっとだけ勇気を出して、彼に近づいてみようかと思ってしまった。

それは、野菜畑で野菜の世話をする地味な少女としての自分のプライドを守るため。あくまで、桜井智樹から見れば第三者。それ以上は望まないけど、イメージが悪くなって、それ以下になるのはとても嫌。勇気を出さない彼女なりの見栄。だけど、その野菜を愛する自分の作った野菜を褒めてくれた。野菜を好きな人に悪い人はいない。

そんな彼が所属する新大陸発見部の部長さん(?)が野菜を収穫するのを見てしまった。野菜というのは偏見。農業は人類に必要なことだけど、そんなに周りから見て格好いいものではないと思う。自慢して、頑張っているんだよ。って、いうのも何か変だ。バカにされることはないと思うけれど、好印象にはつながらないと思ってしまった。それは彼女なりの偏見。野菜を育てる自分に対する偏見でもある。

だから、こんな野菜を育てている姿は見せられない。きっと幻滅してしまう。ただ単に自分が偏見を持っているのかも知れないけれど、そんな勇気はない。恥ずかしい。見栄えのいい少女たちが、いつも彼の周りを取り囲んでいて、そこに自分が入れば……。いやいや、それはない。それはあってはならない。そんな姿は想像できない。

でも、野菜に対して偏見を持っていない部長さんから声をかけてみようなんて、ちょっと思ってしまったり。これは下心があるわけではなく、彼を知るための第一歩。桜井智樹に憧れを持っている自分のちょっとした好奇心。そこから、イカロスさんへとつながり、野菜の輪(話)が広がる。みんな野菜に対して偏見を持ってない。彼の周りは優しい人ばかり。もしかしたら、自分に対しても、偏見を持たないでいてくれるかな?

あと、「剪定」って言葉。イカロスさんはあまり好きじゃないということに同意してくれた。どんなに不器用でも、どんなに口下手でも、どんなに勇気がなくても、どんなに魅力がなくても、剪定されない。選別されない。みんな平等に育ってきた野菜だから。商品にならなくてもいい。見た目は美しくなくても、中身は一緒だから。きっと、他と同じで美味しいはず。なんか自分のことを言っているみたいだ。

そこから、自分に偏見のない自分をさらけ出そうと決意してしまった。新大陸発見部、入部届を彼に……。彼に近づきたい。その衝動が抑えきれなくて、少ない勇気を振り絞っての挑戦。入部届という名の挑戦状。入部届という名のラブレター。彼にとって、自分はどう映っているのか、どんどん知りたくなってくる。剪定しないよね? でも、自分みたいな子は剪定されても仕方のない存在だから、断られたときの挫折も予想しておく。

そして、入部。入部するための試練。それは二人だけのひととき。彼女にとって、それは剪定ではなく、彼と過ごせる大切な時間。憧れた彼が望むものなら、全てが肯定。絶対肯定。恥ずかしいと思っていた野菜を育てている自分の姿よりも恥ずかしいかも知れない。だけど、それは彼の望んでいるもの。それはきっと恥ずかしくなんてない。自分に時間を割いてくれている。喜ばなきゃ。

そこからようやく認められて、新しい生活。新しい自分。みんなの中にいる自分。第三者ではない自分。そこには憧れの桜井智樹がいて、一緒に楽しんでくれている。剪定なんてされずに、周りと同じ一つの野菜としてみてくれた。それが誇りになる。偏見を打ち砕くぐらいに、楽しさが不安を凌駕する。自分は自分のままでいていい。でも、まだ、野菜を育てている自分の姿にだけは自信が持てない。時間が解決してくれるのかな?

そして、桜井智樹と自分が付き合っている疑惑からの流れで、野菜を育てている自分の姿が見られてしまった。恥ずかしい。まだ、心の準備が出来ていない。でも、そんな姿も認めてくれた。彼は自分が思っていた人よりも寛容だった。その気持ちが憧れを超越する。そして、告白。衝動的だけど、嬉しさを言葉に表したくて、「好きです」の言葉。

でも、拒絶されたらどうしようという不安が突然彼女を襲う。だから、思い出の場所で、あの場所で決着を。自分自身に決着をつけたい。進んでしまった関係はもう戻れない。拒絶されて、新大陸発見部に居づらくなったらどうしよう? でも、もし、こんな自分でも、彼が望んでくれていたら……。少しの希望だけ……。ほんの少しだけど、やっぱり、自分に自信を持ってしまった彼女の勇気の言葉。

そんな期待と不安が入り混じる時間の中で彼女は悩み続ける。断られてもいい。だけど、答えが聞きたい。応えが聞きたい。彼の本当の言葉と思いを知りたい。そこに不慮の事故での死が彼女に突然訪れる。それは彼の言葉を聞く前の死。そこでのリセット。日和という存在の消去。自分が自分でなくなり、桜井智樹の中での自分の記憶も思い出も全て消し去って、永遠に彼からの答えを聞かずに終わってしまう。そんな切なさと悔しさ。関わってしまった自分への後悔もあったかも知れない。

そこで利用されてしまった自分の存在。それはエンジェロイドとして、心を持たない時限爆弾。人を愛し、郷土を愛し、野菜を愛した彼女の心の利用。郷土愛はあるけれど、昔に戻ればいいというわけじゃない。だからこそ、桜井智樹が彼女の間違った思考を直したい。でも、直せない。そんな中、イカロスは自分の命を日和に捧げる覚悟を残して一緒に散る覚悟をする。日和を愛したイカロスの気持ちが伝わる。

だけど、そんな結末は桜井智樹が許さない。桜井智樹自身の命よりも、イカロスや日和の命を優先した。「死ぬな」。きっと、これはマスターからの命令。死なないでいて欲しい彼女たちを守るための決死のダイブ。そして、取り戻す。日和の記憶を日和自身が……。もう、時限爆弾が爆発することだけを待つ時間だけを残して……。

なら、彼からの言葉はいらない。せめて、自分のわがままを許して。短い時間の中で彼女の出した答え。桜井智樹の答えを聞く答えを導きださない。そんな時間も余裕もない。なら、せめて夢を見させて……。キスという形で、彼を最期に感じて……。、日和という少女の勇気のカタチ。

こんなカタチで最期を迎えて消えてしまっても、彼を忘れないでいられるかもしれない。そんな淡い希望。もしかしたら、彼に日和という存在を覚えて欲しかったのかも知れない。それほどまでに彼女は強くなった。影から見守るだけの少女から、かけがえのない、代わりのいない一人の少女としての成長と終わりの物語。

儚くも辛い。だけど、記憶はなくなり……日和は……。

日和という存在が消えてしまっても、リボンにつけた鈴という日和の物的証拠。彼女が彼女という個体識別できる思い出を残して、アルバムから消えても、希望の鈴はなくならない。鈴が「鳴る」という彼女なりの自己主張を残して……。