世界観

[野球][経営学][青春][学園][感動]

あらすじ

敏腕マネージャーと野球部の仲間たちが甲子園を目指して奮闘する青春小説。高校野球の女子マネージャーのみなみちゃんは、マネージャーの仕事のために、ドラッカーの『マネジメント』を間違って買ってしまいます。はじめは難しくて後悔するのですが、しだいに野球部のマネジメントにも生かせることに気付きます。これまでのドラッカー読者だけでなく、高校生や大学生、そして若手ビジネスパーソンなど多くの人に読んでほしい一冊。

短文感想(ネタバレなし)


私はこの作品を甘く見ていた。ダイヤモンド社から出ていることで惹きつけられる萌え分を考慮した表紙とIFとなるタイトルの面白さだけだと思っていた。そういう意味では内容はそれほどでもないけど、表紙絵とタイトル付けの上手さで売れているんだろうなぁ、とラノベのジャケット買いと同じ感覚でとらえていた。

だから、それほど期待はしていなかった。陳腐なストーリーがあり、陳腐な野球知識、そして、経営についての微妙な知識を提供するくらいにしか思っていなかった。だけど、箱を開けて見れば違った。確かに導入はそれほど面白いと思えることはなかったのだけど、段々とこのドラマ風味な野球部の改革にのめりこんでいった。

野球部のことを書くなら、最低限の野球の知識はないといけないと思っていたので、そこがひとまずの懸念材料だったけど、きちんと野球を知っている著者だったので安心した。かといって、その知識を押し売りするのではなく、提案という形をとり、その提案の結果という戦略の面白さを知ることになった。

それに加え、ドラッカーの『マネジメント』という本からの引用をするので、経営学という経済に関わってくる知識を読者に自然と教えなければいけない。別にこの本を読めば『マネジメント』を読まなくていいというわけでもなく、かといって本の紹介に留まることもしない。その時代の先駆者が残した知恵と知識を筆者なりに噛み砕いて、小説の中にわかりやすく適応している所が素晴らしい所だと思う。

『マネジメント』自体は青年実業家や開業を目指す人たち向けに書かれているとはいえ、実生活に役立つ人間関係を円滑にすすめるためのコツや社会で生活するための自分や他人の交流を柱として書かれているように思う。だから、経営学のバイブル的存在のこの本を意識せずにこの小説は読めるように作られている。

まあ、引用が多いのでストーリーとして淡々としていることには変わりはないが、その適応と発想が面白くて飽きずに読み進めることができる。人によっては社会教育の勉強をしている感覚にもなるだろう。だけど、登場人物が普通の女子高生がふと思ったことを野球部を助ける形になるので、野球部としてや人としての成長というドラマが垣間見られるので、その部分は全面的に推したい部分であります。

よくあるテンプレ的展開として野球部を甲子園につれていくために改革を起こして弱小野球部がいつの間にか強豪校へと変身するというわけでもない。目的はどうであれ、着目点は違う部分にあるので、それは野球や経済を好きでなくても、ある程度、ストーリーを追うだけでも色々と気付かされる点や感動するシーンを盛り込んでいるのでひとつの小説としての完成度は高いと思う。

そういう意味では万人に読んで欲しい作品として、強く推していきたいと思う。