神様のメモ帳〈5〉 (電撃文庫)
杉井 光
アスキーメディアワークス
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世界観

[日常][探偵][ニート][学園][ミステリ]

あらすじ

ニート探偵アリスとその助手である僕は、深刻な事件の合間にも、ばかばかしくてつまらない、けれど忘れられない揉め事にいくつも巻き込まれている。今回はそんな僕らの事件簿から、いくつかをご紹介しよう―ミンさんを巡るストーカー事件「はなまるスープ顛末」、アリスご執心の酒屋を襲った営業妨害事件「探偵の愛した博士」、平坂組のバカども総勢を巻き込んだ誘拐事件「大バカ任侠入門編」に、特大100ページ書き下ろしのオールスター野球騒動「あの夏の21球」を収録。泣き笑いの日常満載のニートティーン・ストーリー、待望の短編集が登場。

短文感想(ネタバレなし)


やっぱり、杉井光はすごいなぁ、と思ったよ。
「さよならピアノソナタ」もそうだけど、短編の盛り上げやオチを知っている。
どう描けば読者にとって楽しいか、それだけを考えて実現できるのが素晴らしい。

4巻までとは違って、この5巻は短編4章構成なんだけど、どの章もクオリティが高く、
どれも渾身の出来を狙って、最大限に頑張ったと思える宝石のような輝き。

それに今までとは雰囲気は変わって、すこしだけ日常的な感じなんだけど、
その雰囲気が「神様のメモ帳」のイメージを決して壊さないままに描ききっている。
そして、あの夏の21球は野球ファンとしては大満足の出来でした。

これは、全国の野球ファンには読んで欲しい、ワクワクして胸から熱いものが
こみ上げてくる感覚。それに上手い具合にピースがはまっていく様は見ていて爽快。

ナルミはいつまでたっても、ナルミのままで、アリスもアリスであり続ける。
だけど、微妙に変わる人間関係。そこは気づくか気づかないかわからないほどの、
微細な変化でもある。だけど、この二人の会話を見ているだけで和やかになる。

それにナルミを取り巻く仲間と徐々に広がっていく周りを助けたいという思いからの
狭い人間関係から、広く知れ渡っていく人間関係から、ナルミはナルミなりに、
人としての器量や度胸が磨かれていく感じがして、見ていてとても面白い。

もう、ナルミがヘタレ主人公なんて呼ばせない。
杉井光は主人公の心理面が弱く、常にネガティブに考えてしまうのがネックでしたが、
段々と気にならない主人公の描き方を知り始めている。いや、もう知っている。

だからこそ、この杉井光の出す作品には期待してしまうんですよね。
今回は手放しで喜べる作品で、あぁ、いつまでも、終わらずに続いて欲しいな、
と思わせる作品でした。次回作も楽しみにしています。