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旅に出よう、滅びゆく世界の果てまで。 (電撃文庫)
萬屋 直人
メディアワークス
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世界観

[旅][喪失症][滅びる世界][恋愛]

あらすじ

世界は穏やかに滅びつつあった。「喪失症」が蔓延し、次々と人間がいなくなっていったのだ。人々は名前を失い、色彩を失い、やがて存在自体を喪失していく……。
そんな世界を一台のスーパーカブが走っていた。 乗っているのは少年と少女。他の人たちと同様に「喪失症」に罹った彼らは、学校も家も捨てて旅に出た。
目指すのは、世界の果て。
辿り着くのかわからない。でも旅をやめようとは思わない。いつか互いが消えてしまう日が来たとしても、後悔したくないから。
少年と少女は旅を続ける。記録と記憶を失った世界で、一冊の日記帳とともに――。

短文感想(ネタバレなし)


「喪失症」…自分の存在が消えるだけでなく、自分を覚えている周りの人間の記憶や、自分の残した記録も全て消えてしまう病気に世界中の人がかかってしまい、医者も原因解明が出来ない中で、その喪失症にかかった少年、少女の旅物語。

あらすじや、最初の部分を読めば、とても絶望的で、不治の病にかかった上に、みんなから忘れ去られるという、とてもショッキングな内容に思え、自暴自棄になっての二人旅になり、かなりシリアスな展開でネガティブな内容かと思いきや、意外と現実を受け止め、割り切った二人と他の人間との心温まるストーリーに心を打たれました。

挿絵を見ればわかる通り、スーパーカブにのって、ただ、北上するだけのストーリーなんですが、なんていうか爽快感が素晴らしい。旅といえば、電撃文庫でいえば「キノの旅」ですが、あちらは社会風刺とか世界の矛盾を描いたものに対し、こちらは、純粋な二人の少年少女が旅行く先で色々と人間関係を築いて、成長する物語。

喪失症という絶望的な病気の中で、自分たちに出来る、最大限の何かをしようとする前向きな姿勢と、そのことを気にとめないで、本当に日常の中の一ページを切り取ったかのような、楽観的な生活が、とても、爽やかな気分にさせてくれ、読了感も大変良いものとなっております。

なんだろう、無一文で旅に出て、旅での過酷さや、きつさを強調して、決して楽な旅ではないけれど、その自然の中で培った野宿生活というのが、自由奔放さがあっていいですね。それに、現代でありながら、世界は滅び行く危機に瀕しているので、通貨で取引ができない状況で、物々交換のような対価が必要だという点も真新しいなぁという印象。

通貨が通用しないので、旅の途中では、燃料や食物を補給しないといけないのですが、それが人からのサービスであったり、優しさや、単純な労働力として、返したりと、これが滅び行く世界の人たちかと思うほど前向きで、暖かい物語でした。

構成は短編形式で3つに別れているんですが、読みすすめていくほどに、味が出て行く作品なので、これは文章力さえ、つければ化ける作家ではないかなぁ、と期待しております。