九つの、物語
九つの、物語
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橋本 紡
集英社
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世界観

[日常][兄弟愛][恋愛][料理][小説]

あらすじ

大切な人を、自分の心を取り戻す再生の物語
大学生のゆきなのもとに突然現われた、もういるはずのない兄。奇妙で心地よい二人の生活は、しかし永遠には続かなかった。母からの手紙が失われた記憶を蘇らせ、ゆきなの心は壊れていく…。

短文感想(ネタバレなし)


タイトルの「九つの、物語」とある通り、九つの章に分かれており、それぞれ昔の作家が書いた小説と作品の内容や概要をリンクさせてあるという面白い試み。

それぞれの小説の解説を読んだとしても、それほど読みたいと思わないけど、この作品のように、小説からちょっとした概要や一文を引用して、登場人物の心情と重ねあわせて、説明されると、確かに本って面白いなと思ってしまう。

ほんのちょっとした日常を描いただけの小説に、読者を惹きつけさせる作家はそうそういないと思う。橋本紡の小説を読んで面白いと感じない読者は、ほとんどが平凡な日常を淡々と描いているだけのヤマなし、オチなしのダラダラ続く小説という印象が強いようです。

それと作品に描かれた”残酷”性。小説って、作られた物語なので、リアルな日常から離れたものとして読んでいる人も多いと思います。そのため、ストーリーがどんな突拍子のない、読者の予測できない展開であることを楽しみにしている読者もいるかも知れません。

それは娯楽小説として、正しい姿でもあるのですが、橋本紡の作品の場合、日常にかなり近づけて書いていると思うんです。作中のストーリーは、ノンフィクションであってもおかしくないほどの平凡な日常を描いたもの。それだけで感情移入しやすい状況を作っています。

そんな状況で、人間の暗い部分、不安でネガティブな感情を、素直に吐露している描写を読むと、少し悲しい気分になってしまったりするようで、それが好かれない”残酷”な要因でもあるのですが、橋本紡作品の持ち味でもあり、強みでもある気がするんですよね。

人間の明るい部分と暗い部分をすべてさらけ出している上に、そこに少しの希望や明るさを見出しているので、なにか自分と重ね合わせて、心が穏やかになるんですよね。

そんな暖かい小説を一般では、あまり出せていなかったのですが、やっと、全力でオススメできる作品を出してくれて、うれしい限りです。「毛布おばけと金曜日の階段」と内容が近く、それに暖かさを倍増させて、橋本紡本人も”最高傑作”を出せたと言っているとおりの内容です。

序盤では、兄が得意な料理解説が会話の内容を占めていたので、ダラダラ感が強くなってきて、ちょっと料理の話は別にここで書かなくてもいいよとも思ったのですが、読むにつれて、兄と妹の兄弟愛が素晴らしく、言葉と行動の両方とも、かなり優しい兄の描写が、とても暖かい気持ちにさせて、料理の話もひきたて役になっていたラストにかけては、素晴らしいの一言です。