私の男
私の男
posted with amazlet at 08.10.29
桜庭 一樹
文藝春秋
売り上げランキング: 3755

世界観

[恋愛][狂気][シリアス]

あらすじ

お父さんからは夜の匂いがした。
狂気にみちた愛のもとでは善と悪の境もない。暗い北の海から逃げてきた父と娘の過去を、美しく力強い筆致で抉りだす著者の真骨頂『私の男』。

短文感想(ネタバレなし)


文章構成、心理描写、読者のひきつけ方はトップレベル。現状の狂った二人を複数の視点で見たときに、それぞれが抱く感情を詳細に描いているために、文章で読ませる工夫は素晴らしいと思う。また、ストーリーが過去にさかのぼって、次々と明らかになっていく秘密はミステリー畑から出ただけはある。

ただ、根本的な部分、何を読者に伝えたかったのかや、モラルハザードの原因となる部分が最後まで明らかになっていない部分が多く、読み終わった後に、色々と疑問がわいてきて、消化不良の状態になる。

悲しい、切ない、寂しい、絶望的、それら色々な感情を描いている分、その文章の中では共感出来る部分はあるのに、結末に対しての共感できる部分がないのが残念なところ、狂気というものを描いてみたかったのかも知れない。

この作品は著者の傾向として近いのは「少女に向かない職業」。ミステリー要素に加え、殺人を犯した背景、その時の心境など、作品としては、こちらの方が数倍は出来が良いと思われ、「私の男」が直木賞を受賞して、この作品をきっかけに読み始めた読者は、あまり好みの作品でないと感じたならば、別の桜庭一樹作品「砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない」「少女七竈と七人の可愛そうな大人」などの作品を読んでみてから、評価してもらいたいと思う。

残念ながら、桜庭一樹は、一般文芸作品を出す場合、ちょっと一般の人が理解しがたい、人とは変わった異色作を出そうとする傾向があるみたいです。軽い思いつきでさらっと書いてしまった「砂糖菓子」の方が楽しめたのは残念です。

直木賞受賞コメントにもあるとおり、今までの小説とは全く変わったオリジナルの作品を出す才能はあるので、これからが楽しみな作者だと思います。