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世界観
[恋愛][音楽][ロック][クラシック][青春][学園]
あらすじ
「六月になったら、わたしは消えるから」転校生にしてピアノの天才・真冬は言い放った。彼女は人を寄せつけずピアノも弾かず、空き教室にこもってエレキギターの超速弾きばかりするようになる。そんな真冬に憤慨する男子が一人。大音量でCDを聴くためにその教室を無断使用していたナオは、ベースで真冬を“ぶっとばす”ことにより、占拠された教室の奪還をめざす。民俗音楽研究部なる部活の創設を目論む自称革命家の先輩・神楽坂響子とナオの幼なじみ・千晶も絡みつつ、ナオと真冬の関係は接近していくが、真冬には隠された秘密があって―。恋と革命と音楽が織りなすボーイ・ミーツ・ガール・ストーリー。
短文感想(ネタバレなし)
「火目の巫女」「神様のメモ帳」と読んできましたが、作者の書きたかったのはこういう小説なんだろうなぁと思わせる内容。あとがきにふれていましたが、作者も過去にロックバンドをやっていたようで、そのときの情熱とか、気持ちを表現したかったように感じます。ただ、音楽の専門用語が頻繁に出てきます。その説明や語り口調は、なるほど、主人公が音楽評論家を自称しているだけあって表現力はかなりうまい。たとえば、文中に出てくるこの一文。
五つの分散和音が紡ぎ出されては暗闇の中に飛び散って消えていく。ゆっくりと、形を変えながら少しずつ広がっていく。風を探りながら、高みへと昇っていく渡り鳥の群れのように。平均律クラヴィア曲集、前奏曲とフーガ第一巻−第一番ハ長調。
音楽という目に見えないものを言葉で他の人に伝えるというのはかなり難しいです。でも、作者の使う例えだと、全く音楽を知らない人でも少しはわかるように感じます。
パロディとかと同じで、作中のジャンルとしてロックやクラシック音楽についての知識が豊富にある人ならば、なるほど面白いと思う箇所も多くあって、ときどき暴走して評論家の語り口調で音楽と今の気持ちへの適用をはちょっと感情移入しにくいかな。詩的で知的な感じがするけど。
この作者が書いた著書で共通する部分は、常に主人公の考えがネガティブだということ。内容もネガティブ部分が多いですが、絶望の中に少しの希望を見出す。でも、その希望を詳しくは説明しない。読者の気持ち次第でハッピーエンドにもバッドエンドにもなる。
これから色々経験を積んでいけば、今以上にのびしろのある作者だと思いました。自分としては「神様のメモ帳」みたいな探偵モノが好きなんだけどなぁ。